貴女の遺書、と聞いて。
 その瞬間モニカの視線がすっと私から外れた。
 目の前で死のうとして、私に毒を飲ませてしまったことが、自分でも受け入れがたいのだと思う。
 私はそれに気付かない振りをして、話を続けた。



 ─こんなところには、もう縛られない。
  私だって、これからはジェリーのように、好きなように自由に生きる。

 ─あの1年が辛いことばかり起きる私の人生で1番楽しかった。



「貴女は本当は……
 周囲の気を引くために匂わせていたけれど、本当はクレイトンの伯爵位なんて欲しくなかったんじゃないかな、と思ったの。
 ねえ、モニカ、貴女本当は何がしたいの?
 あるのなら、それこそ遠慮しないで言って欲しいし。
 まだ見つかっていないのなら、じっくり遺言書を読んで考えてみたら?」


「……私がクレイトンは要らない、となったら叔父様が残る……
 でも、本当は叔父様も王都へ戻りたがっているし、リアンだって画家になりたいんでしょう?」

「お父様は貴族から逃げだしたい方だけど、責任を取る覚悟でここへ戻ってきてるのよ。
 お母様もそう……そんな大人のふたりに、貴女が気を遣うことはない。
 リアンだって本当は後を継ぎたくない、画家一本で生きていく覚悟があるなら、あの子も自分で言わないと」