気分が良いから調子に乗った愚かで見栄っぱりな私は、エプロン姿のおじさんがおつりなど持っていないのも分かっていたのに、財布から取り出した50ルア紙幣を、ゆっくりと周囲に見せつけるように頭上にかざしてから差し出した。


 倹約家の母が知ったら、頭をはたかれること必須の。
 自分では1ルアも稼げないくせに偉そうに言った『おつりは結構よ』の台詞と共に。


 周囲から拍手と口笛と、よくやった!の声が飛んで。 
 拙いカーテシーで、それに応えた。
 お金を手にしたおじさんは、そそくさと消えた。

 ……これで、バカな娘の三文芝居は終わりだ。


 私に向けた歓声には大変いい気分にさせていただいたけれど、内心は後悔が渦巻いていた。


 それは、このエリアから私のフラットまでキャブに乗ったら。
 その料金は50ルアが消えた手持ちでは心許ないという現実だった。