苦労しながら働く青年がお好きな祖父が、サイモンをどうするつもりかは聞いていないが、それだって将来私が彼から直接傷付けられていないからだ。


 だが私の服毒も、実行したのはモニカでも、元は彼じゃないか!
 今の祖父にとっては、何年後かの話だからピンと来ていないんだ。
 毒に倒れた私や……泣くことをずっと我慢していたオルを、祖父は見ていない。


 命懸けでサイモンとの縁を切らそうとしていた23歳のオルを、私だけは忘れてはいけない。



 そう決意した私は。
 シーズンズの裏口で、少しだけ言葉を交わしただけで。
 休み時間や食堂で、顔を合わすと挨拶をしてくるようになったサイモンを避け続けた。
 彼の隣には臣下だと見せ掛けた監視役のゲインも居る。


 学院で友達が居ないと言った私を哀れんで、取り巻きに加えようと思し召してくださったのかも。
 だが、そういうお情けは必要ない。


『ブスの癖に、王子の挨拶を無視する生意気な1年』

 どんどん言ってくれても、構わない。 
 ゲインから、私の名前が侯爵に伝わってムーアに辿り着くのは、今回も避けられるだろうか。



 ある日、言語教室の机の中に手紙が入っていた。
 シドニー・ハイパーのイニシャルが記された手紙だ。
 私のファーストネームを知った、と綴られている。
 だから、どうだと言うのか。


 手紙は最後まで読んだが、私はそのまま細かく裂いて、休み時間に校舎裏の焼却炉に捨てた。

 この日は放課後に調べたいことがあって、図書室へ行った。