彼から差し出された注文書と、私が持っていたその控えを先ず見比べて同じものだと確認した。
 荷馬車からひとりでクレイトンからの木箱を3箱降ろすと、シドニーは袖口で流れる汗を拭った。
 先月よりはましになったが、10月上旬の天気の良い日はまだ暑かった。


 厨房内がお忙しいのか、担当者はなかなか顔を出してくれなくて。
 重い沈黙が私とシドニーの間に流れた。


「あの……」

 その沈黙を破ったのはシドニーの方だった。



「……バラさないでいてくれて、助かった。
 直ぐに噂になると思ってた」

「……噂話をするような友達が居ないからです」

「……友達居ないのか?」

「そうですよ。
 でも、すごく信頼出来る友人がひとり居てくれるから、毎日楽しいです」


 私には、貴方のように多くの取り巻きは居ませんけど、と言外に滲ませる。
 彼にはメリッサのような心許せるひとが居ないのは分かっていたけれど。
 ……やはり私は意地悪なので。


「キャンベルも働いてる、って言うことは……」

 言い掛けて、シドニーが口をつぐむ。
 裏口が開いて、厨房の男性が顔を出したからだ。


「お待たせして、ごめんなー」

「いえ、中身の確認お願いします」


 シドニーが丁寧に頭を下げて、いつもの納品チェックが始まって。
 それが終わって、私は退勤した。

 シドニーとは、1度も目を合わさなかった。