絵の具は高価で手が出せなかったが、これを美し過ぎる天才画家の第一歩にして欲しい。
 これからもリアンへのプレゼントは画材に決めている。


 来月、彼女と直接話をしようと決めた。
 本当ならもっと時間をかけて、物事を見極めて。
 慎重にことを進めた方がいいのだと思うけれど、ねちねちとモニカを苛めるのも飽きてきた。

 それほど苛めの手数が多い方でもない。
 意地悪は得意だけれど、好んでしている訳じゃないし、言った後は少し虚しくなるし、もうやめ時だと思ったからだ。


 黙って睨むだけで、言い返してくれないし。
 何も言えない本物のヒロインなら仕方ないけれど、本当はぶちまけたいことが溜まっているモニカなのに。


 その時ドアがノックされて、外から先輩に声を掛けられた。
 受付にお祖父様からお電話が入ってますよ、と教えていただいて、1階に駆け降りたら、先輩が階段から下を見下ろしていて、『走らなーい!』と注意されてしまった。



祖父が寮に掛けてくる電話は、いつも短めだ。


「シドニー・ハイパー、面白いことが分かったぞ」


 そうだ、先月シドニーと侯爵家を調べる、と仰っていた。
 バタバタしていて、すっかり忘れていた。


「……面白い、とは?」

「あいつは本物のシドニー・ハイパーじゃない。
 今週中にもう少し報告があるらしいから、まとめて話そう。
 土曜の夜、夕食はいけるか?」

「……17時退勤ですので、その後に伺えば良いですか?」

「お前の好きな兎を用意しておく」