ところが、オルは背を向けていた。
 普通に皆が選ぶ一番奥のテーブルで。
 普通なら壁を背にして、入口向きに座る人が多いのに。
 誰かが入ってきたのは分かっているのに、振り返りもせずに壁に向かったままだった。


 ◇◇◇


 オルが座っている場所から斜め前方に立つ。
 期待した以下の再会だとは言え、顔を見ずに帰ることは出来なかった。


「……はじめましてオルくん……
 オルシアナスくん……」


 名前を呼ばれて、彼が私を見上げた……
 仕方なく。



「……貴女、誰?」

 面倒くさそうに開いた口元にビスケットの粉が付いていた。

 顔立ちはパピーを彷彿とさせるけれど、その瞳が。
 ……金色ではなく、薄い茶色と黄色が混じったような色で。
 輝きもなく、知性も感じさせない、ドロリと濁った様な瞳している。


 この子が10歳のオル?
 私が一瞬答えに詰まると、オルは直ぐに視線を逸らして、またビスケットに噛りついた。


 大人のオルのあの腰に来るような声とはもちろん違う。
 幼いパピーの少し甘えたような高音の声とも違う。
 何の感情も含んでいない声。


 気付いてしまった。
 この子がどうして未だに引き取られなかったのか。
 ベンに、あんなの無理、と言われるのか。