「……魔法士と言うのは、信じよう。
 先ほどの誓いを、君は詠唱無しで行った。
 魔力無しでも分かるよ、明らかに空気の流れを感じたからね。
 僕も魔法士に知り合いが居ないわけではないから、それが出来るのは類いまれな才能の持ち主である、とは分かる。
 そんな優秀な魔法士が魔力切れを起こすなんて余程のことだよ。
 幼い君の背中には虐待の跡があり、少額ではあってもパンを窃盗したね?
 何があったのか聞かせて貰えるかな?」

「……黙秘権を行使します」

「弁護士には情報開示請求が認められていてね。
 魔法庁へ君の名前で情報提供を求めたっていいんだ。
 名前は言えるね?」

「黙秘権を行使します」

「黙秘権の行使なんて、許されるのは王族直属の魔法士だけだよ。
 もしかして、そうなのか?」

「……黙秘権を行使」

 オルは3度目の黙秘権行使しちゃった……


「……魔力を使い切った訳も名前も、黙秘権を使うんだ。
 わかった、では矛先を変える」


 何を言っても答えないオルを諦めたのか、フィリップスさんが私の方に向き直った。


「彼の名前を教えてください。
 何も判明しない限り、僕は彼を警察に引き渡します。
 貴女が身元のわからない窃盗犯の男を2日間も部屋に泊めて警察のお世話になった、とムーア氏に報告をしなくてはなりません」