義理の弟くんの一樹《いつき》くんとわたしの、二人だけの同居生活が始まりました。

 かなり、……ドキドキですっ。

 家にパパが帰って来ないことなんて初めてだ。
 それもしばらく会えないんだよね。
 ずっとパパとわたしの二人での生活だったから、変な感じだ。

 それから一樹くんと仲良く毎日暮らしていけるかな?
 今さらだけど、お年頃の男の子と二人っきりって……。
 だいぶ気まずくない?
 いやいやいや、何をわたしは考えているんだろうか。

 相手は義理とはいえ、弟なんだ。
 わたしがお姉ちゃんとしてしっかりしないとね。
 ずっと姉弟ってものに憧れてたもん。
 わたしには無理なお願いだと思ってた。
 まさかそれが中学三年生になって叶うと思わなかったな〜。

「一樹くん。さっき空港まで見送った時、パパも橙子さんも、ちょっぴり寂しそうだったね」
「そうだったか?」

 私は別れ際を思い出して、ちょっぴり切なくなってきちゃったよ。

「果歩、明日さ」
「うん?」
「俺、部活帰りにそっち寄るから。一緒に買い物行こう」
「あっ、うん」

 一樹くんは自分の部屋に行かずに、リビングで勉強をし始めた。

「あれ? 一樹くん、自分の部屋で勉強やらないの?」
「……寂しいんだろ? 果歩が一人でも平気なら部屋でやる」
「えっ? えっと……。うん、ちょっとだけ寂しいかも。でもリビングだと集中出来ないんじゃない?」
「べっつにぃ。……部屋でやるのと変わんねーよ」
「そ、そう?」
「俺、ここ来る前は住んでたの狭いアパートだったし、自分の部屋なんて無かったんだ。それに果歩一人だとそんなにうるさくねえし。母さんの方がやかましかったよ」
「そうなの? 橙子さんが?」
「母さん、歌いながら家事したりすんの。あと悠人さんや友達との電話が長い」
「ふふっ、そうなんだ〜。パパと長電話してたね、そういや」

 なんか、良かった。
 一樹くんと普通にお喋りが弾んでる。

「果歩、あのさ」
「うん?」
「くれぐれも俺と二人だけで暮らしてるって誰にも話すなよな? 防犯上もそうだし、義理の弟と二人で住んでるなんて知ったらあらぬ疑いが起きて、とやかく言う奴が出て来るから」
「そうだね、一樹くん。私、分かってるよ。……えっと、一樹くんが義理の弟じゃなくって本当の姉弟ってことにしといた方が良いってことも」

 パパと橙子さんと私と一樹くんで、これからのことを取り決めたんだ。

 緊急用に、橙子さんがわたしたちが困らないようにあれこれ書いてくれたノートがある。

 わりと近くにわたしのパパの妹の多喜子《たきこ》ちゃん(わたしのおばさん)が住んでる。
 あとは一樹くんのおじいちゃんおばあちゃんと橙子さんのお兄さんも同じ県内に住んでいるから、なにかあったら大人を頼りなさいって。
 だから、安心だ。

 多喜子ちゃん達に事情をパパも橙子さんも話してくれてる。

 いざとなったら、相談とか助けを呼べる大人がいるのはすごく心強いよね。


 それから思ったけど一樹くんって、わたしと二人きりならいっぱい話してくれるんだね。
 お家なら無口じゃないんだ。
 良かったなあ。

 あっ、もしかして、わたしが寂しくならないように、一生懸命お喋りしてくれてるの?

 心なしか、普段は素っ気なくて無愛想な一樹くんが、今日はわたしに優しく微笑んでる気がした。