一途な御曹司の甘い溺愛~クズ男製造機なのでお付き合いできません!~

 別荘の壮麗な玄関扉が開かれて、屋内へ導かれた。
 ホールには磨き上げられた大理石の床が広がり、煌めくシャンデリアが吊されている。螺旋階段のある吹き抜けの天井は、とても優雅な空間だ。
「素敵ですね……」
「気に入ってくれたかな? プールはこっちにあるんだ」
 奥へ向かうと、広大なリビングには暖炉が設置されている。冬でも暖かく過ごせる仕様だ。
 フルハイトの窓の向こうには、薄闇にたゆたう水面が見える。
 そのとき、パッと照明が点いた。
 悠司がリモコンを操作したのだ。
 別荘には煌々と明かりが灯る。窓の外のプールは、紫に赤、青など七色に光り輝いた。
「わあ、綺麗!」
 思わず紗英は華やいだ声を上げる。
 プールの中についている照明が、水面を七色に染め上げている。
 周囲には椰子のような大木が植えられており、その隙間にあるライトがプールサイドを照らしていた。
 華やかなのに趣のある幻想的な光景は、非日常の世界だ。
 悠司が窓を開け放つと、心地よい夜風が吹いてきた。
「ここが秘密の場所だ。仕事を頑張っているきみへのご褒美だよ。なにも考えず、プールで泳ごう」
「はい……!」
 気分が盛り上がった紗英は、悠司とともにプールサイドへ出る。
 だが、とあることに気づいてしまった。
「あっ……悠司さん。私、水着を持ってないです」
 プールで泳ぐには水着が必要だ。
 そもそも、紗英は水着を持っていなかった。大人になってから、海やプールなどに出かけたことはないから。
 ところが悠司は驚きもせず、着ていたジャケットを脱ぐ。
「俺もだよ。裸で泳ごう」
「えっ⁉ 裸で?」
 プールで裸で泳ぐという発想がまったくなかったので、紗英は目を見開く。
 だが、ここは別荘のプールだ。しかも、悠司とふたりきり。
 平然とした悠司はシャツを脱ぎ捨てた。
 薄い筋肉をまとった体を、彼は惜しみなく月明かりに晒す。
 名匠が彫り上げた彫刻のような、見事な肉体だ。
「誰も見ていないし、誰も来ないよ。だから裸で泳ぐのも、服を脱ぎ捨てるのも自由だ」
 瞬く間に全裸になった悠司は、ざばりとプールに足から飛び込んだ。
 自由な彼に、紗英は呆気にとられる。
 頭から水をかぶった悠司は、両手で髪をかき上げた。
 そうすると彼の艶めいた魅力が増す。
「紗英もおいでよ。気持ちいいから」
「で、でも……脱ぐところを悠司さんに見られるのは恥ずかしいです」
「じゃあ、見ないから」
 そう言うと、悠司は伸びやかにクロールを始めた。
 華麗な泳ぎを見せる彼を眺めつつ、紗英は柱の陰に隠れて、服を脱ぐ。
 全裸になると、すうすうしてなんだか落ち着かなかった。
 けれど服を着たままプールに入るわけにはいかない。紗英は七色に光るプールに近づくと、そっと足を水面につけた。
 ザブンと首まで水に浸かる。
 水温はちょうどよかった。
 夏の太陽が隠れた夜は、ナイトプールに最適だった。
 ふう、と息を漏らした紗英は心地よさに浸る。
「気持ちいい……」
 少しだけ平泳ぎをしてみるが、もがいたようになってしまう。
 クロールで広いプールを四往復した悠司は、まるで魚のようにするりと泳ぎ、紗英の傍にやってきた。
 裸なので少し恥ずかしいと思ったけれど、悠司は気にしていないようだ。
 それに彼だって裸なのである。
「紗英は泳ぎは得意なの?」
「見ての通り、下手です……。どうやって泳いだらいいのか、わからないんですよね」
「一緒に泳ごう。俺が支えているから、バタ足をしてみて」
 悠司は紗英の肩を支えると、片手で平泳ぎを始めた。
 ほとんど彼の背に乗っているような形になるが、紗英は懸命にバタ足をする。
「すごい……! うまく泳げている気分です」
「上手だよ。泳ぐのは気持ちいい?」
「はい、とっても、気持ちいいです!」
 紗英は泳ぎに夢中になった。
 悠司の背中は大きくて広くて、安心感がある。
 彼のリードはとてもうまくて、あっという間にプールの端まで着いてしまった。
 もう一回、と言った悠司は、また紗英を背負うようにして泳ぐ。
 そうして何度もプールを往復した。
 楽しくて、時間を忘れて過ごした。こんなに無邪気になって泳ぐのは初めてかもしれない。
 やがて泳ぎ疲れたふたりは、プールの縁に掴まった。