ポンテナール先生の学校では1月の終わりに最終試験が有ります. ここで不合格になるともう通えないのです。
生徒たちは朝から真剣な顔をして覚えた魔法の確認をしているのですが、、、。 「間違えないようにしないとね、、、。」
あっちでこっちでみんなは腕を回したり上げたりしながら確認しています。 でも、、、。
 「わ! 何をするんだ!」 「痛いじゃないか!」
「キャーーーー!」 そのたびに机や椅子が、時には生徒まで浮き上がったり飛んだりして大騒ぎ。
 先生はそんな生徒たちの大騒ぎを優しく見守っています。
ラーラとピッピは教室の隅で話したり絵を描いたりしています。 二人とも落ち着いて順番を待っているようです。
いつか二人が結婚することを知っているローデンワイヤーさんは静かに二人を見守っています。
(それにしてもこの二人はこの半年よく頑張ったよな。」 そんなことを思いながら彼はポンテナール先生を見ました。

 そう。 あの檜事件以来、先生はラーラには特に厳しく指導してきたのです。 ローデンワイヤーさんでさえ驚くほどです。
「先生はいったい何をされているのですか?」 その時、先生は彼にだけ教えてくれたのです。
「私はもう長くありません。 来春までは生きられないでしょう。 だからラーラ君を鍛えているのです。」
 やがて夕方になり、試験は終わりました。 「ラーラペンジャミン君はよく頑張りました。 卒業です。」
「え? 嘘だろう?」 みんなはその発表に驚いてしまいました。
「早過ぎるわよ。」 ピッピでさえ信じられないようですね。
「先生! 彼はまだ足りないようですよ!」 生徒の一人が叫んだのでみんなはドッと笑いました。
「ラーラ君はどうしますか?」 「続けます。」
彼はしばらく考えてからそう答えました。 「ではローデンワイヤーさんと一緒にお手伝いをしてくださいね。」
「はい。」 「やったあ!」
「キャーーーーーーーーーーーーーー!」 嬉しさのあまりにみんなが思い切り腕を振ったので先生は学校の屋根を突き破って飛ばされてしまいました。

 「ラーラ、先生を探しに行こう!」 ピッピが叫びました。
「じゃあ、私も行くよ。」 ローデンワイヤーさんも後から出てきました。
「先生はどっちに飛んで行ったんだろう?」 「こう、腕を振っていたからあっちの方角ではないですか?」
ローデンワイヤーさんは学校の北側に見えている小さな山を指差しました。 そこはラーラのお父さんが炭焼きをしている山です。
「あそこなら知ってるよ。 行こう。」 「こんな寒い中じゃ先生がかわいそうだわ。 早く行きましょう。」
ラーラが絨毯を広げたので三人はそれに乗って飛んでいきました。

 ここ、ドイツも冬の寒さは厳しく、山ともなればそれはそれは、、、、。
ポンテナール先生は学校の屋根を突き破ってこんな所にまで飛ばされてきたのです。
先生はいったい何処に居るのでしょうか? おやおや?
よーく見てください。 木の枝に引っかかってミノムシみたいになった先生が震えています。
「ここは何処なんでしょう? 私はいったい、、、?」 小屋が見えます。
炭焼き小屋のようですが、中には誰も居ないようです。 (このままでは魔法も使えないなあ、、、。)
何が起きるか分かりません。 先生はぶら下がったままで不安そう。
ドスーーン! 上のほうから雪の塊が落ちました。
 ローデンワイヤーさんは目を凝らして林の中を見詰めていますが、なかなか見付からないようです。 ラーラは持っていた小石を投げました。
「コマラクルヤン カマラクリヤン 灯になれ!」 呪文を唱えると辺りがパッと明るくなりました。
あそこ!」 ピッピは先生を見付けると巻いていたマフラーを投げました。
「先生! それに掴まって!」 ピッピは懸命に叫びますが、先生は寒くて動けません。
そこでローデンワイヤーさんが腕を振り回すと、マフラーはグングン伸びて行って先生を包み込みました。
「おー、ローデンワイヤーさん。 助かりました。」 絨毯に引き上げられた先生は大きな溜息を吐きました。

 「みんな、よくやってくれた。 ここまで力を付けたんですね。」 学校に戻ってきた先生は暖炉の前に座り込んで生徒たちを見回しました。
「ごめんなさい。 嬉しくてついやってしまいました。」 「私は嬉しいのですよ。 私が教えたことを皆さんが覚えていてくれたので、、、。 ハックショーーーーーン!」
先生はくしゃみをしながら震えています。 「今のは誰?」
くしゃみに驚いたピッピが飛んできました。 「すごい熱。 先生は休んでいてください。」
ピッピはそう言うと暖炉に鍋を置いて温かいスープを作ってくれました。
「ありがとう。 あなたは必ずいい奥さんになるでしょう。」 先生の頬を一筋の涙がこぼれていきました。

 先生は早くに奥さんを亡くして今は一人暮らし。 学校に居る時間が一番楽しいのです。
生徒たちが帰った後も学校に残っていて、ローゼンワイヤーさんと雪掻きをしたり、校舎の修理をしたりしています。
朝も誰よりも早く来ています。 掃除をしたり部屋を暖めたりしているんですよ。
ピッピはそんな先生が大好きです。

 ある日曜日のこと。 ラーラは久しぶりにピッピの家へ遊びに行きました。
二人で絵を描こうと約束していたんですね。
 「ラーラ、何か書けた?」 「これ、、、。」
ラーラは緊張しながら書き掛けの童話をピッピに渡しました。
「ふーーーん、、、。」 ピッピは(またか)と思いながらもラーラが差し出した原稿を読み始めました。
 「あはははは。 これ面白いじゃない。 絵を描いてもいいかなあ?」 「あ、ああ。」
ピッピの思い掛けない返事にラーラはすっかり照れてしまいました。
(やっと喜んでくれた。 うまくやれたらいいなあ。)
 ラーラは薪ストーブに当たりながらそう思いました。

 ピッピは場面を想像しながら絵を描いています。 「こうすると面白いかなあ?」
一つ一つの絵に精一杯の心を込めて描いていきます。
 それを見ながらお母さんは微笑して言いました。 「無理しないのよ。 お母さん。」
「お母さん?」 「そうよ。 あなたはもうすぐラーラさんのお嫁さんになるんだからね。」
「お嫁さんか、、、。」
ピッピはふと想像しました。 ラーラと二人で小さな家に住んで子育てをするんです。
彼が仕事に行っている間、掃除をしたり絵を描いたり、、、。
 そんな未来を想像しているとラーラの声が聞こえました。
(ピッピ、お昼ご飯だよ。」 「ごめん。 ボーっとしてた。」
仕立物の手を休めてお昼ご飯を作ってくれたお母さんが絵を覗き見ながら言いました。
「これさあ、出来上がったら読み聞かせに持って行ってもいいかなあ?」
ラーラのお母さんも絵を見ながら嬉しそうです。 「二人ともうまくなったわねえ。」
 スープを飲んでいたお母さんはふと、お父さんが残した釣竿を見ました。 「お父さんは喜んでくれるかな?」
あれほど、ラーラのお父さんを貶していた人です。 心配にはなりますが、、、。
でも過ぎたこと。 お母さんが庭に目をやると白い花が風に揺れました。
冬もそろそろ終わるのでしょうか?