もう11月です。 この町にも寒い寒い冬が来ました。
お父さんの炭焼きもしばらくはお休み。 モルフの森も雪をかぶってしまって動物たちも寒そうにしています。
 魔術学校を覗いてみるとポンテナール先生だけは今日も元気です。 「さあさあ、今日も始めますよ。」
教室の隅の暖炉の前に屯している生徒たちに明るく声を掛けます。 「やれやれ、、、行くか。」
生徒たちは面倒くさそうな顔で教室の真中へ集まってきました。
 「これまでの復讐をしましょうねえ。 ペンジャミン君 お願いしますよ。」
先生は隣で畏まっているラーラに呼び掛けました。

 ラーラはあの檜事件以来、ずいぶんと上達して今では先生の助手を任されるほどになったのです。
「あの時はどうなるかと思ったが、よくもここまで上達したものだ。」 ローデンワイヤーさんもそんな彼を頼もしく思っています。
 ラーラは一つずつ生徒たちに見えるように魔法の手本を見せていきます。 そのたびに「オー!」と声が上がります。
みんなは最終試験の勉強もかねて忘れていないか確認しているのです。
 学校から帰ってくるとラーラは薪割の手伝いに出掛けます。 そこには時々ピッピも一緒に居ます。
ラーラが割った薪をピッピが束ねて軒下に積み上げていくのです。
雪が降りしきる庭先で二人は汗だくになって仕事をしています。 「今日もありがとうねえ。」
その家のお母さんたちは二人をねぎらいながら小遣いやハムやウインナーなどをくれるのです。
ラーラは貰った小遣いを将来のために貯金していると言います。 もっと勉強したいそうです。
 ウインナーなどはお母さんに渡します。 「ご苦労だったねえ。 食べるかい?」
「今日はねえ、ロージンゲンのおじいさんの家まで行ってきたよ。」
「ほう、あそこまで行ったのかい。 疲れたね。」 「でもいいんだ。 みんなが喜んでくれるから。」
お母さんはハムを切りながらパンと一緒に焼いてくれます。 それを食べながら薪割の様子を話すのがラーラの楽しみなんです。
 そうかと思うと朝から氷柱折りの仕事をしていたりします。 どちらも大変な仕事です。

 そんなある日のこと、お父さんと二人で炭焼き小屋の点検に行くことになりました。
「ラーラ、一緒に来るかい?」 「もちろんだよ。」
雪が降ってからは初めてです。 雪が降り積もった山道を雪を掻きながら登っていくのです。
 重たい荷物を背負って一時間ほど登っていくとレンガ造りの小屋が見えてきます。 周りはすっかり雪に埋もれていますね。
中はかなり寒そうです。 「入るぞ。」
扉を開けて蝋燭に火を灯し、暖炉に薪をくべていきます。
ラーラは行ったり来たりしながら寒いのをこらえています。 持ってきたパンやハムを焼きながらお父さんはあちらこちらを見て回ります。
 窯は秋以来閉まったままで中は真っ暗なままです。 時々、ドカーンと大きな音がします。
屋根から雪が落ちてくるのです。 ラーラは鍋いっぱいに雪を集めてきました。

 「最近、ピッピとは仲良くしてるのか?」 「もちろんだよ。」
「そうか。」 「最近はね、ピッピも魔法を使えるようになってきたんだよ。」
「それはいいけど、あんまり無茶なことをするんじゃないぞ。」 「分かってる。 もう、あんなことはしないよ。」
 お父さんは焼けたパンにチーズとハムを載せました。 うーん、美味しそう。
 鍋の雪も解けてきたのでお父さんは野菜も刻んでその中へ放り込みました。
秋に干しておいた肉も入れて塩と胡椒だけのシンプルなスープを作ります。 堪らなくいい匂いが漂ってきそうですねえ。
 あのハイドリンゲンの檜も雪をかぶってしまって寒そうにしています。 動物たちの姿も見えません。
 お父さんはスープが出来上がるまでの間に鉈や鋸の点検をすることにしました。
ラーラは窯に入ったり出たりして遊んでいます。 ふだんは絶対に入れない所です。
「遊ぶのは構わんが調子に乗るんじゃないぞ。」 「分かってる。」
そう言いながら彼はズンズン奥へ入っていきます。 少しずつ上へ上っているようです。
お父さんがいつも炭焼きをしている窯です。 中は真っ暗で壁は煤だらけ。
気付いたらラーラも煤だらけになってしまいました。 (よくこんな仕事が出来るなあ。)
ラーラは感心しきりで窯から出てきました。

 あらかたの点検を済ませたお父さんは昼食を食べながらラーラに聞きました。
「お前もそろそろ13だな。 15の時にはピッピと一緒になるのだから仕事をすることを考えてもいいんじゃないか?」 「仕事?」
「そうだ。 そろそろ仕事に慣れてもいい頃だぞ。」 「ぼくね、書き物をしたいんだ。」
「書き物?」 お父さんはふと考えました。
「それもいいとは思うが、それだけじゃあ食べていけないぞ。」 「そうかなあ?」
「炭焼きも面白いもんだぞ。」 ラーラはポカンとして聞いています。
まだまだ実感が湧かないようですね。
 「春になったら一緒に来よう。 やってみれば分かるよ。」 「うん、、、。」
 家に帰ってきたラーラは一人で悶々としています。 「どうしたんでしょう?」
お母さんは心配そうです。 「なに、仕事の話をしただけだよ。 ラーラももう13歳なんだからね。」
お母さんはそれを聞いて少し寂しくなりました。

 (お父さんはああ言うけどピッピと書き物をしたいんだ。 炭焼きもいいけどさ、、、。)
半信半疑なままでどうしたらいいのか、ラーラには分かりません。 そんなラーラを心配そうにお母さんも見詰めていました。
「15になればピッピと一緒になるんだ。 ラーラも子供じゃなくなるんだよ。」
 そうなんです。 15歳を過ぎたら一人前の大人としてラーラを見なければいけません。 甘やかすことも出来なくなるのです。
お母さんはパンを焼きながら溜息を吐きました。
 ラーラはというとさっきから机に向かって書き物をしています。 (ピッピが居たら楽しいのになあ。)
いつも一緒に遊んでいる二人なのですが、冬の間はピッピもお母さんを手伝っていてなかなか遊べないのです。
ラーラは頬杖をついて窓の外に目をやりました。