水色の手紙をあなたに

 部屋に帰ってくると雅子さんが買い物袋を受け取った。 「主人に持たせとくわけにはいかないわ。」
「主人?」 「そう。 私のご主人様。」
「そんな大げさな、、、。」 「いいの。 今だけでもそうしていたいの。」
 買った食材を冷蔵庫に放り込んでいく。 なんか楽しそう。
 全部入れてしまうと今度は台所に立った。 「夕食は何がいい?」
「そうだねえ、、、。 煮物でもいいかな。」 「日本人なのねえ。」
「え?」 「あら、いけなかった?」
「いやいや、いいけど、、、。」 「ダメだったらダメって言ってね。」
 野菜を煮ながら雅子さんは鼻歌を歌い出した。 (楽しそうだなあ。)
醤油や味醂を取り出しては注ぎながら味を見ている。 しばらくして俺の方を向いた。
「味見してくれる?」 「うん。 なかなかいい味だね。」
「そうやって私の味見もしたんでしょう?」 「どういうこと?」
「なんかさあ会うたびに激しくなってきたなって感じてるのよ。」 「激しく?」
「そうそう。 なんか命の奥まで突き込まれてる感じでいつもいつも萌えちゃって、、、。」 「そうなのか、、、。」
 雅子さんは不意にキスをしてきた。 油断してたから思わず抱き締めてしまった。
「いいのよ。 私をもっと壊しても、、、。」 熱い吐息で絡んでくる。
(逃げられないな。) そう思った。
 夕食を食べながら時々窓の外に目をやる。 どっか寂しそうでどっか魔力を秘めていそうなその目が心を釘づけにしていくのが分かる。
(このままでいいな。) そう思ったりもする。
でも課長のあの嬉しそうな笑顔を思い出すと(このままじゃいけない。)とも思うんだ。 気持ちが揺れに揺れ動いている。
どうしたらいいんだろう? 雅子さんを抱いてしまったのは事実なんだし、、、。
 「ずっとこうしていたいな。」 「でもそれは、、、。」
「分かってるわ。 いつまでも私がここに居てはいけないことだって。」 「雅子さん、、、。」
「今だけでいいわ。 私が生きてる今だけ、、、。」 「、、、。」 「もしかして自殺する気じゃ?」
「そんな勇気が有ったらとっくに死んでるわよ。 私は弱い女なの。」 「そんな風には見えないけどなあ。」
「元気な時に会ってるからそう思うのよ。 落ち込んでる時はすごいんだから、、、。」 「そうなのか、、、。」
煮物を食べながら政子さんの顔を覗き込む。 寂しそうに笑っている。
(魔女なんだな。) とっさにそう思った。