あなたの霊を守ります 霊キャプター宮城の一日

 「彼女はボスが知っている人ですよ。」 「そうだとは思うが、、、。」
「でもあの人には羊舞の影が見えます。」 「何だって? 羊舞?」
「そう。 羊怪の息女です。」 「羊怪に女が、、、。」
「しかし羊舞は侮れません。」 「そうだな。 俺一人では倒せない。」
「ボス、弱点がどうのって言ってましたよね?」 「ああ。 お前の弱点は目だって。」
「ぼくにはそうは思えない。」 「何で?」
「もっと違う所に有るんじゃないかと、、、。」 「そうか。 でもまずは、、、。」
「そうですね。 早く助けてあげてください。」
 宮城は壁の前で苦悶している笹尾を見た。 そしてバリアを払うように念導力を込めた。
「うーーーーーーー!」 「少しの辛抱です。 助けますから。」
 笹尾が顔を歪ませている。 (こいつはひどいな。 簡単には破れない。)
「宮城、力を貸そう。」 その時、アーシーの声が聞こえた。
「助かります。」 「うーーーーー、ワーーーーー、やめろ!」
 笹尾の顔がさらに歪んだ時、壁がボロボロと崩れ始めた。 「もう少しだ。」
宮城が力を振り絞った時、笹尾の体が床に転がり出てきた。 「笹尾さん、もう大丈夫だ。」
「あ、あ、ああ。」 「宮城、誰かが迫ってくるぞ。 気を付けろ!」
アーシーの声が聞こえた瞬間、窓ガラスを突き破って渚が飛び込んできた。 「吉田さん、、、。 なぜ?」
「宮城さん、、、。 私はいったい何を?」 「分からない。 でも確かに操られている。」
「私が?」 「そうだ。 確かに操られている。」
「そんなことは無いわよ。」 渚は平静を装っているがその視線はさ迷ったままである。
 茂は窓の外に目をやった。 「危ない!」
そして咄嗟に渚を突き飛ばした。 直後、電のようなプラズマが壁に向かって走っていった。
 「何なの? これは?」 「羊舞の魔力だ。 君を目覚めさせたくないんだな。」
「羊舞? 何それ?」 「今は分からなくてもいい。 いずれはっきり分かる時が来る。」
 「宮城君 大丈夫なのか?」 そこへ彼を案じていた川嶋が入ってきた。
「大丈夫だ。 笹尾さんもこの通り。」 「それはいいんだが何で吉田さんがここに?」
「それは俺にも分からない。 今はとにかく笹尾さんを、、、。」 「それはそうだな。」
 川嶋は警備隊の隊員を呼び集めると笹尾をタンカに載せて看護センターへ運んでいった。

 それにしても不思議な事件が続く島である。 羊舞が渚を洗脳しようとしている。
スプリンターフラッシュが立て続けに事故を起こして正体不明の死体が見付かり、笹尾が壁に埋められた。 どうしてこの島に不思議な事件が、、、?
 茂が最初にワープした崖の前に立ってみた。 一見何の変哲も無い崖である。
「どっかに古い屋敷のような物が有ったよな。」 彼はその屋敷が気になって仕方がない。 しかし何処に有るのか誰も知らないという。
「そんなはずは無いだろう。 このレーシングコースが出来る前に移築されているんだ。 何処かにその証拠が在るはずだ。」 「そんな物は無いのよ。 何にも無いの。」
「誰だ?」 「私は謎の女。 あなたには捕まらないわ。」
 声だけが聞こえてくる。 茂はふと崖の上を見やった。
そこにはっきりとは見えないが山伏が立っているのが見えた気がした。 (山伏、、、?)
 この島に山伏が居たというのだろうか? そのような話を聞いたことは無い。
ますます不思議な島である。 茂はコースを歩いてみた。
 コーススイーパーが忙しそうに走ってきた。 あの事故の日も彼らは休まずに走っていた。
魔のヘアピンと呼ばれている辺りに来た。 この辺りも風景にさほど異常は見られない。
 (何が目的なんだ? 黒夢は?) それさえ彼には読み解けない気がしている。
(しかし、これだけの事件が起きるということは必ずやつらが動き出すってことだよな。 キャプターの中でも不穏な動きが出てきているし、、、。) もう昼である。
 メンテナンスブースに来てみたが、スプリンターフラッシュの影は無い。 3台とも破壊されてしまったんだ。
当分は製作されることも無いだろう。 渚がぼんやりと立ちすくんでいるのが見えた。
 「吉田さん。」 「宮城さん。」
「すまないな。 車をみんな壊しちまって、、、。」 「いいの。 車はまた作ればいいんだから。 それより何よりあなたが無事だったからそれだけでいいわ。」
 渚が宮城を見詰めたその時、、、。 「何をするんだ?」
「あなたにウロウロされては困るのよ。 死んでもらうわ。」 「ダメだ、意識が、、、。」
 それから半日が過ぎた。 「ここは?」
「気が付いたか。 ニューヨークの事務所だよ。」 「アーシー。」
 「君はもう少しで羊舞に殺されるところだった。 それにキャシーが気付いてテレポートさせたんだよ。」 「そうだったのか。」
「羊舞は恐ろしい女だ。 人の心に入り込む力を持っている。 入り込まれた人間は命を吸い取られて死ぬんだ。」 「じゃあ渚も、、、?」
「あの女には可哀そうだがいずれそうなるだろう。」 「それを防ぐことは出来ないのか?」
「ただ一つだけ方法が有る。 それは、、、。」 「アーシー、教えるのはまだ早いわよ。」
「そうだな。 いずれ君にも分かる時が来るだろう。」 「ボス、もう少し体を休めたほうが、、、。」
「それでは日本が、、、。」 「大丈夫。 羊舞はしばらく現れないわ。」
 キャシーはそう言うと紅茶を啜った。

 「アーシー、ロスが危ない。」 そこへジョーが入ってきた。
「何だって?」 「ロスのキャプターが反乱を起こしそうだ。」
「何がどうしてそうなったんだ?」 「どうも羊怪が操っているやつが居るらしいんだ。」
「羊怪がか?」 「あいつの力は大きい。 バラバラに体当たりしていてはやられてしまう。 何とかしなければ、、、。」
「スコット ミリモントを呼んでくれ。」 「分かりました。」
 「宮城、いよいよ黒夢が動き出したらしい。 最強のキャプターを集めねば、、、。」 「とは思うのですが、策は有るんですか?」
「無いことは無いんだが命懸けの作戦になる。 簡単に倒せるような相手ではないからな。」 「分かります。 しかし、、、。」
「ロスの連中は心配だが構ってばかりはいられない。 彼らを犠牲にしてでもやらなければいかん。 地球が混乱してしまうからな。」
アーシーは天井を見上げた。
 夕方になってジョーが呼んだスコットミリメンとがやってきた。 「アーシー、ロスは大変なことになってるぞ。」
「首謀者は誰だ?」 「ジャクソンウィリアムズだ。 こいつが仲間を洗脳して回ってる。」 「厄介だな。 あいつに動かれるとこちらも下手な手出しは出来なくなる。」
「スコット、ジャクソンってのはどんなやつなんだい?」 「超がいくつも付くほどの几帳面な男だ。」 「ということは過去に出会ったやつなら特徴から何まで記憶しているってことだね?」
「そうだ。 だからアーシーだって手は出せない。」 「過去を消したらどうなるんだ?」
「そりゃあもちろん、やつだって動けなくなるさ。 でもそんなことが出来るのか?」 「確信は無いがやってみるだけの価値は有ると思う。」
「しかし宮城、相当な犠牲も出るぞ。」 「分かってます。 でもやらないわけには、、、。」
 そこへ何処からか不気味な声が聞こえてきた。 「やあ、諸君久しぶりだね。 覚えてくれているかな?」
「お前は羊怪、、、。」 「そうだ。 宮城君。 君はさすがに賢いねえ。 褒めてあげるよ。」
「何の用だ?」 「用は無いのだ。 ただ挨拶をしに来ただけだ。」
「みんな、伏せろ!」 羊怪の影が消えるか消えないうちに眩い光が弾け飛んだ。
 「これはいったい?」 「先手を打ちに来たらしいな。 動きが読まれている。」 「よし。 ジョーとスコットはバリアを張ってくれ。 キャシーはウィリアムズの動きを監視してくれ。」
「分かったわ。」 アーシーは腕時計を覗いた。