あなたの霊を守ります 霊キャプター宮城の一日

 「まもなくヘアピンに掛かります。 時速は、、、えっと280キロ。」 「追跡は確実にやるんだぞ。」
「分かってます。 今、絶壁の前を、、、。」 宮城はロングストライプの前で思い切りエンジンを吹かしてみた。
 この直線はコース内でも最長で1,5キロも有る。 飛ばし野郎には一番嬉しい直線だ。
絶壁をやり過ごしロングストライプを爆走するスプリンターフラッシュをヘリが追い掛ける。 まるで逃亡犯とカーチェイスを繰り広げているようだ。
 ロングストライプをやり過ごすと悲鳴を上げたくなるようなヘアピンが待っている。
{驚異のヘアピン}と呼ばれているs字カーブの連続である。 その中にはかなりのアップダウンが仕込まれている。
 「設計者も意地悪だなあ。」と試走したドライバーが眉を顰めるほどの難所である。
そこを難なく通り過ぎた宮城はブースの前に戻ってきた。 「やっと完走できたよ。」
 「お疲れさまーーーー。」 珍しく満面の笑みをたたえて渚が走ってきた。
「このマシーンはすごいねえ。 さすがは自信作だ。」 「そうでしょうね。 お疲れさま。 休んでください。」
 ルーフを撫でている宮城に素っ気なく言うと渚は奥へ引っ込んでしまった。 「何だい、あの態度は?」
「いいじゃないか。 初めて完走したんだ。 感極まって、、、のことじゃないのか?」 「だといいけどなあ。」
 宮城は再びコースへ出ていった。 「今度はゆっくり走ってみるよ。」
「了解。 無理しないでくださいね。」 「順調すぎるくらいだよ。 エンジンは最高だね。」
 その時、キャシーの声が聞こえた。 「茂、トンネルの中に誰か居るわよ。」
「トンネル?」 「そう。 教委のヘアピンの前のトンネル。」
 絶壁の辺りで一度車を止めた宮城は絶壁の前を歩いてみた。
「この辺りだよな。 俺が意識を失ったのは、、、。」 絶壁を横切ると崖である。
 崖にまで来た宮城は(おや?)っと思った。 崖下に誰かが倒れているように見えたからだ。
じっと目を凝らしていると、、、。 ガラガラガラ、、、と音を立てて崖が崩れ落ちた。
「うわーーーーー、、、、、。」 「どうしたんです? 宮城さん 宮城さん!」
 監視ヘリも動転しているようである。 警備隊が事態を知って急行した。
「大丈夫か?」 ロープで下りてきた隊員は倒れている男を見てギョッとした。 「宮城じゃないぞ。」
「何だって? 宮城が居ない?」 「そうなんです。 消えました。」
「あのなあ、かくれんぼしてるんじゃないんだぞ。 よく探せよ。」 「ですが、、、。」
「俺ならここに居るよ。」 「え?」
 崖から落ちたはずの宮城は絶壁の前に倒れていたらしい。 「何で? じゃあ、この男は?」
キツネにつままれたような顔で隊員は倒れていた男を取り合えず収容して事務所に戻って行った。 「不思議な事件ばかりだな。」
 川嶋は崩れ落ちた崖を見ながらそう呟いた。 「危ない!」
そんな川嶋を宮城は突き飛ばした。 その後を黄色い矢が飛んで行った。
「何だよ いきなり?」 「今、黄色い矢が見えたでしょう? ほら、あそこに落ちている。」 「ああ、しかしあれが何で俺を?」
「それは分かりません。 でもこの辺りに何かが有るのは確かです。」 「じゃあ近付かないほうがいいな。」
「そうですね。 俺だってギリギリ避けられたものの、、、。」 宮城はこの絶壁に何かが隠されていることを感じた。
 総合管理センターでは事務員が奇妙なメールを受け取って困惑している。 「また来たのか?」
笹尾は複雑な顔をしている事務員に笑いかけた。 「しかし、このメールは、、、。」
「ほっとけよ。 意味なんて無いだろう。」 「でも、、、。」
 そう思った時、天上から赤い水が降ってきた。 「おいおい、今度は部屋の中に雨が降ってるぞ。 どうなってるんだい?」
副管理者の川上洋平が天井を見上げた時、蛍光灯が彼目掛けて落ちてきた。 「危ない!」
センターにたまたまやってきた小川雄平が洋平を突き飛ばしたのはいいが、蛍光灯は小川の上に落ちて破裂した。
 バン!っという音に驚いた宮城も飛び込んできた。 彼はメンテナンスブースを出て管理センターに向かっていたところである。
「小川さん!」 「これはおかしい。 宮城、調べてくれ。」
 小川はそう言うと死んでしまった。 「ここもおかしいな。 何か有るぞ。」
「蛍光灯が当たっただけで死にますか?」 「分からない。 それだけじゃないような気がする。」
 「宮城君の事故だってまだまだ原因が分かってないんだ。 いったいどうなってるんだ この島は?」 「謎のメールを見せてください。」
 宮城は笹尾に懇願する。 「あんなのを見たって何にも分からんだろう。」
「とは思いますが、謎を解く鍵が有るのでは?」 「物好きだなあ 君は。 何が起きても知らんぞ。」
笹尾は笑いながら例のメールを宮城に見せた。
 「これは、、、。」 「何か分かるかね?」
「いたずらにしては手が込んでるしまぐれにしては出来過ぎている。 山と室町には何か深い関係が有りそうですね。」
「君はそう思うのか。」 「山、、、、、待てよ。 もしかして?」
「何か?」 「いや、、、ふと感じただけですよ。」
「感じた?」 「ええ。 しばらく一人にしてくれませんか?」
「いいだろう。」 笹尾は心配しながらも部屋を出ていった。
 「ボス、岐阜県の辺りで何かが動いてます。」 「それは知ってるよ。 やつだろう。」
「違います。 別の何かです。」 「別の?」
「そう。 その島で死体が見付かったでしょう? それと関係が有りそうです。」 「あの男か。」
 宮城は崖の下に転がっていた男の死体を思い出した。 (あれはいったい誰なんだ?)
川嶋に問うてはみたがさっぱり分からないと言う。 「遺伝子検査もしたんだがさっぱり分からないんだよ。」
「どういうことですか?」 「北東アジア系だってことまでは分かったんだ。 しかしそこから先が分からない。 抽出した遺伝子が変化してしまって、、、。」
「遺伝子が変化する?」 「そうなんだ。 勝手に分解したり結合したり、、、。」
 科学捜査研究所でも研究員を悩ませているこの死体はいったい誰なのか? そして島で起こり続ける怪事件は誰の仕業なのか?
宮城はそのどれにも黒武が関わっているように感じている。 そして渚の不思議な気配も、、、。
 彼がスプリンターフラッシュ3号に乗ってコースを走っている時だった。 「お前は永遠に走り続けるんだ。」
途切れ途切れではあったが女の声がそう聞こえた。 (これは誰だ?)
 スピードを上げる。 すると、、、。
「もうお前は止まれない。 そのまま走り続けるのだ。」 またもや女の声が聞こえた。
「何? ブレーキが利かない。 どうなってるんだ?」 「こちら監視ヘリ。 宮城さん 止まってください!」
「そう言われてもブレーキが利かないんだ。 エンジンブレーキも掛からない。 どうしたらいいんだ?」 島は爆走を続けるスプリンターフラッシュにまたまた混乱してしまった。
 「燃料が尽きるまで走るしか無いのか?」 「それじゃああと7時間は走り続けることになる。 そこまで耐えられないだろう。」
「しかし、俺たちにはどうすることも出来ん。 止まるのを待つしか、、、。」 「吉田さんは何処に居る?」
「そうだ。 彼女に聞いたら何か分かるかも。」 山石徹が渚を探しに出掛けた。
 その頃、渚は自分の部屋に居た。 でも様子は何か変だ。
窓際に立って何かを見詰めている。 視線の先にはスプリンターフラッシュが、、、。
 「走っているわね。 それでいいのよ。 永遠に走りなさい。」 トントントン。
「吉田さん!」 ドアの前で声が聞こえた。