あなたの霊を守ります 霊キャプター宮城の一日

 念導力は相当に強いらしい。 「みんな、スクラムを組むんだ!」
宮城が叫ぶ。 アーシーも全力を振り絞っている。
「バリアオン!」 ケントが右腕を振り上げた。
 その瞬間、ビルがものすごい音を立てて揺れ動いたから大変だ。 気象センターの地震計が一瞬で振り切れてしまった。
「かなり強力だな。 発信源は何処なんだ?」 「パキスタンです。」
「パキスタン?」 「そうです。 パキスタン支部は抗争が多くて壊滅させられたはずなんだけど、、、。」
「それにしてもパキスタンだけでこんな大きな力は出せないだろう。」 「そこが謎なんですよ。 黒武が力を貸しているとしか思えない。」
 「となると東アジアは危険だな。 ここ数年の未解決事件を洗い出してくれ。」 「分かりました。」
「宮城君 分かっただろう? 黒武が世界征服を企んでいるのかもしれん。 そのためにも日本は大事なターゲットになるだろう。」
宮城は身構えるしかなかった。 自分を狙ってくる正体不明の大きな敵、、、。
 そして彼が命を落としてでも守らなければいけない日本という国。
そこではまだまだこの恐怖は伝わっていないんだ。 何かが起きても心霊現象とか超常現象として捉えるのが精一杯の国、、、それが日本なんだ。
 若者たちはファッションや恋愛に浮かれ、有力者は権力闘争に明け暮れ、現実を見ようとはしない。
1億総国民が今を受け入れられずにさ迷い、浮足立っている。 そこをやられたら大変なことになるぞ。
 しかし平和ボケした日本人たちに事実を知らせる術は無い。 知らせても受け入れないだろう。
そんな悲しい国に成り下がっているんだ。 悔しさしか湧いてこない。
なぜあんな国になったんだろう? ビルの一室で彼はもがき苦しむのだった。
 「ボス、北京からものすごい念導力が溢れてきてます。 なんとかして停めなければ、、、。」 「それは分かっている。 しかし今の状態では、、、。」
「キャプターが足りないんですね? それは分かってます。」 ジョーが手帳を開いた。
 「ロンドンとパリの協会は既に動いてます。 ベルギーとバングラディシュも防衛線を張っています。 後は、、、。」 「オーストラリアと日本だな。」
「そうなんです。 しかし日本のキャプター協会は記録が有りません。」 「記録が無い?」
 「そうなんですよ。 日本はどう探しても念導力に対する防衛線が見当たらないんです。」 「どういうことだ?」
そこへキャシーが飛び込んできた。 「どうしたんだ?」
「黒武が何かを発信しているのよ。」 「発信?」
その時、、、。
 「霊キャプター諸君 我々黒武を滅ぼそうとしているようだね? だがそれは無駄な挑戦に終わるであろう。」 「無駄な挑戦?」
「そうだ。 その理由は私からは言わない。 日本人であればいずれ気が付くであろうからな。 宮城君 君との戦いを楽しみにしているよ。」
 「なんてやつだ。 日本が名にかの鍵を持ってるというのか?」 「ボス、必ずその真相を突き止めましょう。」
「俺がなんとか、、、、。」 「ボス一人では無理よ。 黒武の力は大き過ぎるわ。」
 「とにかく我々とロスのキャプターを総動員しよう。 そこからだ。」

 霊キャプター、それがいったい何なのか世界中の人たちは知らない。 過去に封印された秘密結社なのか?
それとも陰州の中に生まれた集団だったのか? それとも?
 過去数千年の歴史書を紐解いても1字の記述すら見当たらないのがこの団体なのである。
記述を残した人間も居ると言われてはいるがその証拠は何処にも残っていない。 明らかなのは脱退した人間が全て闇に葬り去られているということだけである。
 彼らだって現実社会から隔離されているわけではない。 その素顔を誰にも見せないだけである。
彼らはいつ現れたのだろうか? それすら謎を紐解くようなヒントすら見付からないでいる。
 この世界には数多くの秘法とか秘密結社と呼ばれている団体が確かに存在している。 黒武もその一つである。
だがその黒武でさえ歴史書には記述が認められないのだ。 その本部と思しき場所も特定されないまま21世紀の現在に至っている。
 その黒武の統領 羊怪はいったいどのような人物なのだろうか? キャプターの中でしかその正体についての噂は出てこない。
羊怪、それは数千年に一度現れるという念導力の奉仕者。 分かっているのはそれだけである。
 しかもそのたびに霊キャプターも現れるのだが黒武を葬り去ったと聞いたことは無い。
彼らでさえその勢力を抑え込むのが精一杯だったのだ。 その苦闘を乗り越えて今また激突しようとしているわけだ。

 ここ、笹尾のレーシングコースでは今日もコース管理の車が走り回っている。 「宮城さんはいったい何処に行ったんでしょうか?」
「知らねえよ。 こう何度も訳の分からん事件を起こされたんじゃ俺たちだって我慢できねえよ。」 「とは言うけど宮城さんだって、、、。」
「そりゃあ分かってるよ。 あいつだって訳が分からないんだろう。 あいつが分からないのに俺たちに分かれと言われても困るよ。」
 渚はメンテナンスブースからコースに出てみた。 車が走っていない広いコースを歩いてみる。
「おかしいなあ、、、。 絶壁の前で二度も車が消えているのに痕跡すら残ってないなんて、、、。」 彼女は宮城が消滅した絶壁の前に立った。
そしてそのまま気を失って倒れたのである。
 数時間後、渚が目を覚ましたのは医務室のベッドの上だった。 「気が付いたか。」
警備隊の川嶋が心配そうに覗き込んでいる。 「私は、、、。」
 「あの絶壁の前で倒れてたんだよ。 何か有ったのか?」 「いえ、何も覚えてないんです。」
「おかしいな。 隊員の話では「何かが日本に来る。」って呪文みたいなことを言ってたそうなんだけど、、、。」 「呪文?」
「まあいい。 宮城君の事件以来、落ち着かなかったから疲れてるんだろう。 三日くらいゆっくり休んでくれ。 看護師にも面倒を見るように頼んでおくから。」
川嶋が部屋を出ていった後、渚はぼんやりと考え込んでいる。 (何が起きたんだろう?)
 その時、渚の耳元に聞いたことの無い声が聞こえた。 「お前には不思議な力が有る。 宮城茂を混乱させるのだ。 さあ動け。」
渚は夢でも見ているような気になって毛布をかぶると深い眠りに落ちていった。
 何処か謎めいた空間をさ迷っている不思議な夢を見ている。 そこには黒服に身を包んだ白髭の男が立っていた。
「よく来たな。 これからお前は私の指示通りに動くのだ。」 「なぜ? 何のために?」
「宮城茂を消すためだ。 あいつに動かれては私の計画が破滅してしまうからな。」 「宮城さんを?」
 「そうだ。 お前のテレパシーを使ってやつを混乱させるのだ。 いいか。 羊舞。」 「羊舞?」
「そうだ。 お前は私が日本に送り込んだ念導力の術者 羊舞だ。 記憶を取り戻すのだ!」
 男が口笛を吹いた瞬間、渚はうなされるような声を発しながら目を覚ました。 「私はいったい?」
しかし、先ほどまで見ていたはずの夢は記憶に残ってはいなかった。 その代わりにどこか清々しい思いを感じているのである。
 ほんの2,30分寝ていたはずなのに何時間も寝ていたような気がする。 歩いてみると不思議なくらいに体が軽く感じる。
(あれだけ疲れていたはずなのに不思議ね。) そうは思うがスッキリした気分で紅茶を飲む。
 そして何気に体温計を手に取った。 目覚めた時、真っ先に体温を測るのが癖なのである。
「今日も平熱ね。」 そう思った渚は何を思ったのか体温計を壁に向かって投げつけた。
「え?」 彼女が驚くのも無理は無い。
トンっという軽い音がしたかと思ったら体温計が壁に突き刺さっている。 「なぜ?」
 その頃、コースを歩いていた宮川純一は雨の気配を感じてウェザーステーションに駆け込んでいた。 そこでスタッフの山下礼子と談笑していたのだが、、、。
「う、、、。」 突然礼子が胸を押さえて倒れてしまった。
「どうしたんだ? おい!」 体を揺すっても反応が無い。
それどころか礼子は口から泡を噴き出して死んでしまった。 「キャップ、大変だ。 ウェザーステーションに来てくれ!」
彼は真っ蒼になって総合管理室に飛び込んだ。