「少し考えます。」 「そうか。 いい返事を待ってるぞ。」
吉川さんが帰った後、ぼくは改めて真奈美の写真を見た。 (気付いてほしかったのか。)
「そうよ。 だってさあ、猛君 何やっても振り向いてくれないんだもん。 寂しいよ。」
 その夜、ぼくは久しぶりに真奈美の夢を見た。 「寂しかったわ。」
「真奈美ちゃん、、、。」 「私ね、ずっと猛君のことが好きだった。 傍に居たかった。 でも居られなくなっちゃった。」
「そんなことは無いよ。」 「だってさ、もう一緒に遊んだりすることは出来ないのよ。」
「真奈美はいつもぼくの傍に居る。」 「そうなの?」
「何が有っても変わらずにぼくの傍に居るんだ。」 「信じていいの?」
「当たり前だろう? ぼくらはずっと友達だよ。」 「やっぱり友達だったんだ。」
真奈美は顔を曇らせてしまった。 「こんなに好きなのに、、、。」
「ごめん、真奈美ちゃん。 ぼくも好きだよ。」 「ほんとに?」
「ずっと好きだったよ。」 「ほんとね? じゃあ、あの店に戻ってくれる?」
「分かったよ。」

 翌朝、ぼくは久しぶりにトーマスへ出掛けて行った。 何だかすっきりした気分だ。
「おー、山下。 覚悟は決まったか?」 「はい。」
「じゃあ、早速今日から働いてくれ。 制服はお前のロッカーに入ってるから。」
吉川さんもいつになく元気な顔でぼくを迎えてくれた。 「今度は叫んだり転んだりしないでくださいね。」
どうやら涼子も待っていたらしい。 制服に腕を通す。
休憩室には真奈美が好きだったコスモスの花が生けられている。 (あいつ、好きだったよな。)
売り場を歩いてみる。 お客さんたちの笑う声が聞こえる。
「猛君、無理しないのよ。 見守ってるからね。」 真奈美も見詰めてくれている。
ぼくは嬉しかった。 一人じゃなかったんだ。
変わらずに真奈美が見詰めてくれていた。 怒ったり笑ったり悩んだりしながらね。
「ほらほら、慌てて食べるからむセルで賞? ゆっくり食べなさいよ。」 真奈美はお茶を入れながら笑っていたっけ。
 仕事が終わってあの桜の木の下へ行ってみた。 そこに真奈美が立っていた。
「来てくれたのね?」 「そうだよ。 ここはぼくらの思い出の場所だから。」
あの日のように二人並んで座り込む。 秋風が優しく流れていく。
何も言わずにただただお互いを感じている。 幸せだと思った。