ぼくはいつものように売り場を点検している。 「お年玉でキャラグッズなんて買うかなあ?」
「買う人は買いますよ。」 「それはそうかもしれないけど、、、。」
「ノートとかシャーペンとか消しゴムなんかはよく売れますからねえ。 見える所に置いておいたほうがいいですよねえ。」 涼子の提案を受けて一番目立つ棚にポケモングッズを置いた。
 「来月はクリスマスだねえ。 お二人さんは何課予定でも有るの?」 吉川さんがニヤニヤしながら涼子に聞いてきた。
「さあ、、、。」 「それはそれは寂しいですなあ。」
「なんですか?」 「カップルだったらさあ、ホテルに泊まってエッチするとか、何課有るっしょ?」
「私たち、まだまだそんな仲じゃありませんから。」 涼子は箒を持ったまま、プイっと横を向いた。
「内山さんも大変ねえ。 店長に目を付けられちゃって、、、。」 「しょうがないですよ。 相手が山下さんだから、、、。」
「それでも、、、。」 原田さんまでが困惑してしまっているようだ。

 その日の休憩時間のことだった。 「山下、ちょっといいか?」
いきなり吉川さんが休憩室に来たものだからぼくは固まってしまった。
「お前のことじゃないんだ。 内山さんのことだよ。」 「内山さんが何か?」
「実はな、来月から副主任にしようかと思うんだ。 どうだろう?」 「え? まだなってなかったの?」
「今月はテストだよ。 よくやってくれてるし、お前とのコンビネーションもいい。 そこでだ。 お前さえ良ければ今日からでもいいんだけどどうだ?」
「構いませんよ。」 「よし。 決定だ。」
吉川さんは大きくうなづいてから部屋を出て行った。 「エッヘン。 今日から内山涼子さんを副主任に任命する。」
ってなわけで真新しいバッヂを付けた涼子は今までよりも逞しく見えてくる。 「こりゃあ、怖くなるぞ。」
「何か言いましたか?」 「何も言っておりません。」
「じゃあやりますよ。」 細かい所にまで目を光らせている涼子のことだ。
(今までよりもうるさくなりそうだなあ。) 「山下さん 何ボーっとしてるんですか? 行きますよ。」
早速来た。 ぼくも今までより緊張している。
緊張しすぎて棚に突っ込んだり物を蹴り飛ばしたり、、、。 「あらあら、緊張しすぎですよ 山下さん。」
「そんなこと言ったって、、、。」 「今まで通りでいいんですよ。 ちゃんと見てますから。」
「とは言ったって、、、。」 「不満ですか?」
「何にもございません。」 「よろしい。 では参りましょうか。」
どっちが主任なのか、これじゃあ分からないよなあ。 それでもいいかとぼくは思った。
 「山下さん 今度のお休み 付き合ってくれませんか?」 「付き合う?」
「行きたい所が有るんです。」 「何処?」
「真奈美さんのお墓。」 「お墓?」
「そうです。 今のうちにお参りしておきたいんですよ。」 「分かった。」
そんなわけでぼくらは時間を合わせて墓参りに行く約束をした。

 もう12月。 師走と聞くだけで誰もが忙しなくなる。
「年賀状に紅白、ジャンボにレコード大賞、いっぱい有り過ぎなんだよ。 なんでさあ、年末の忙しい時に、、、。」 「昔からですけど、、、。」
「それはそうだけど、、、最近の紅白はつまらんなあ。 面白くない。」 「何でです?」
「だってさあ、韓国人なんか出したって誰が応援するってよ?」 「まあいいじゃないですか。 ぼくは見ないけどね。」
荷物の整理をしながら吉川さんとこんな話をする。 年賀状なんて出さなくなったなあ。
真奈美が生きていた頃は隣なのにわざわざポストに投げ込んで配達してもらってたっけ。
「元旦に俺が郵便受けに入れてやるぞ。」って父さんは笑ってたけど、それじゃあ面白くないんだよ。
あの頃は何が楽しくてそうしてたんだろう? ぼくには分らない。
 さてさて、12月7日になりました。 この日は休みなんです。
ぼくと涼子は申し合わせて納骨堂へ向かった。 「寒いですねえ。」
「冬だもん。」 「ちっとは雰囲気を考えてくださいよ。」
「雰囲気?」 「ったくもう、女心を考えてくださいよ。」
「そんなこと言ったって、、、。」 「そうですよねえ。 私はまだ彼女でも何でもないんですからねえ 山下さん。」
涼子は歩きながら頬を膨らませた。 雪はまだまだだが、吹いてくる風は相当に冷たい。
カラスがたまに餌を探しているだけである。 「この奥なんですね?」
「そうだよ。 あの白い、、、。」 ぼくが指差すと涼子は思いっきり目を見開いた。
「そんなにがん見しなくても、、、。」 「何か言いました?」
「何も、、、。」 「さあ、着きましたよ。 山下さん。」
ぼくらは初めて真奈美と向き合った。
「真奈美さん 今まで山下さんの傍に居てくれてありがとうございました。
これからは私が彼の傍に居ます。 安心してくださいね。」 線香を手向けながら涼子は真面目な顔で話し続ける。
「彼はあわてんぼうだし、忘れん坊だし失敗も多いです。 でも私にとって大事な人なんです。
これからは私に任せてくださいね。」 そこまで言うと涼子は真奈美の遺影に頭を深々と下げた。
「さあ、行きましょう。」 「え?」
「終わったんです。 行きましょう。」 さっさと歩いていく涼子の後を慌てて追い掛ける。
まるで、あの日のぼくらみたいに。
 これから寒い季節になる。 そして新しい春が巡ってくる。
季節は巡る。 思い出を鮮やかに染めながら。