野いちご市野いちごビーチで夏祭りがあった。朝都(あさと)は水上バイクのバイトをした。海パンで水上バイクに乗った。朝都は全身日焼けをしていた。朝都は安全運転した。天気は良く晴れ渡っていた。とても暑く、朝都は汗をかいた。
 ビーチにはステージがあったり、屋台が出ていたりした。
 朝都が岸を見ると、おっ、ユキらしき人物が見えた。水着だ。朝都は安全にゆっくりと、岸に近づいた。ユキは気づいたらしい。
 朝都はユキの前でバイクをストップさせた。ユキはいつものように眼鏡をかけていた。青春の香りがした。ユキの肌は白く汗で光って美しかった。
 「大川さん?」
 「そういうあなたは、東条君」
 「ああ」
 「何してるの?」
 「ああ、ええとお、バイトやってる」
 「そ、そうなんだ。なんか意外?」
 「バイトやってるのが?」
 「そうじゃなくて、生徒会長で優等生の東条君が水上バイク走らせてるの。なんか暴走族みたい」
 「あ、ああ」
 朝都はうろたえた。暴走族の総長であることは学園では内緒なのだ。
 「あの、乗らないか」
 と、朝都。
 「え」
 「あ、ええと、こういうバイトなんだ。祭りに来た人を水上バイクに乗ってもらって体験してもらうんだ」
 「そ、そうなんだ。えらいね」
 「そ、そんなことないよ」
 「じゃ、じゃあ、乗せてもらおうかな」
 「あ、ああ、後ろに乗って」
 「う、ううん」
 「き、気を付けて」
 「う、ううん」
 と言って、ユキは水上バイクの後ろに乗った。
 「お、大川さん、しっかりつかまって」
 「う、ううん」
 ユキがぎゅっと朝都につかまった。朝都はゆくりとエンジンをかけた。朝都は振り向いて、
 「発進するから、しっかりつかまって」
 「う、うん」
 そうして朝都は水上バイクを発進させた。バイクはゆっくり動き出した。
 「ま、曲がるんで、気を付けて」
 と、朝都。
 「う、うん」
 朝都はバイクをカーブさせて、沖へと向けた。そうして沖へをゆっくりと走った。
 「ど、どう?」
 と、朝都。
 「き、気持ちいい」
 「そ、そうだろ」
 と、朝都。
 「沖の方へ行くから」
 「う、うん」
 と、ユキ。
 バイクは沖へと進んだ。しばらく行くと、バイクはゆっくりと止まった。
 「気持ちいいだろう」
 と、朝都は言った。
 「う、うん」
 見渡す限りの大海原だ。沖の方から風が吹き付け、気持ちよかった。
 「俺、中学んときはNASAにあこがれててさあ」
 「うん」
 「でも高校なったら、そういうのありえねえって、わかってきて」
 「でも東条君は学年トップでしょう?」
 「ああ。でもそれでもNASAは遠いよ。ハーバードとかアメリカのトップクラスの大学行かなきゃなんね」
 「そう」
 「で、理論物理学をしに大学行こうと思って」
 「そ、そうなんだ」
 「・・・・・・」
 二人、しばらく無言。
 東条朝都が言った。
 「あ、またバイクはしらせっから」
 「う、うん」
 と、ユキ。
 朝都はエンジンをかけた。ゆっくり発進する。ユキ、朝都にしがみつく。
 「まがっから」
 と、朝都。
 「う、うん」
 と、ユキ。
 バイクは旋回して左に曲がった。朝都は水平線と並行して、バイクを走らせた。前から風がふきつける。
 二人、無言。バイクはゆっくり安全に進む。しばらく進むと、
 「折り返し、旋回すっから、しっかりつかまって」
 と、朝都が言った。
 「う、うん」
 ユキはぎゅっと朝都にしがみついた。
 朝都はゆっくりとバイクを旋回させ、Uターンさせた。そうして、ゆっくり前へ進んだ。
 「どお?」
 と、朝都はユキにきいた。
 「気持ちいい」
 「そうだろう」
 朝都はバイクを走らせた。何度も往復した。
 「どお?」
 と、朝都はユキにきいた。
 「気持ちいい」
 と、ユキ。
 「そう」
 と、朝都。二人は言葉数が少なくなった。
 「おーい」
 と、拡声器の声がした。朝都が見ると、岸に夏祭り実行委員会のおじさんが拡声器を持って、いた。
 「東条君、いつまでやってんの」
 と、おじさん。
 「あ、いけねえ」
 と、朝都。
 「あ、つい長くなっちまった。ごめん」
 朝都はつづけた。
 「あ、いいよ、私こそ、長いことのっちゃって」
 「いや、俺のミスだ。岸、かえっから。まがっから、しっかりつかまって」
 朝都はゆっくりと、バイクを岸に向けた。そうして、おじさんのとこへと、ゆっくりとバイクを走らせた。朝都は岸の近くまで来た。夏祭り実行委員会のおじさんが岸にたっていた。朝都はゆっくりと、バイクをとめた。
 「東条君、長すぎだよ」
 「す、すいません、おじさん。知り合いだったもので。」
 「ああ、そう」
 と、おじさんは、ユキに向かった。
 「同級生の大川さんです」
 「ああ、そういうことか」
 と、おじさんはにやっと笑った。
 「あ、いや違うんですよ、ただの同級生で」
 「あのう初めまして、東条君のクラスメイトの大川ユキといいます」
 「ああ、初めまして」
 と、おじさん。
 ユキは、バイクから降りた。
 「ありがとう」
 と、おじさん。
 「ありがとう、大川さん」
 と、朝都。
 「東条君、気持ちはわかるけど、仕事だからさ」
 「おじさん、ほんとにそんなんじゃないんです」
 おじさん、笑っている。
 「すんません、おじさん。プロ失格ですよね」
 「まあ、まだ高校生だし、バイトだからね」
 「はあ」
 「気を付けてね」
 「わかりました」
 「じゃあ」
 と、おじさんはいって、去った。
 「と、東条君、なんかごめん」
 と、ユキ。
 「あ、いやあ、俺が悪いんだ。ああ、仕事あっから、ごめん」
 「あ、ごめん」
 「じゃ、じゃあ」
 と、朝都は言って、水上バイクを発進させた。
 ユキは手を振った。