心配するように真尋は眉をさげ、悲しそうな顔で千華を見る。
慌てて、千華は明るい声を出した。
千華「大丈夫だよ! 九条くんは寝ぼけてただけで……。御厨くん、助けに来てくれてありがとう!」
真尋「…………」
千華「……?」
じーっと見つめてくる真尋、千華も首を傾げつつ見つめ返す。
すぅと真尋の瞳からハイライトが消えて、暗い瞳になる。
真尋「如月さんが、他の男に汚されたら──」
千華「え? 何か言った?」
ボソボソと喋った真尋。
千華は聞こえなかったため聞き返すと、真尋はぎゅっと千華を抱きしめる。
千華「!?」
真尋「なんでもありません」
千華「なら、どうして抱きしめるのっ」
真尋「大好きな人を抱きしめるのに、理由はいりますか?」
千華「許可! 私に許可をとって!」
少し拘束を緩め、するりと千華の頬を撫でて見下ろす真尋。
その瞳には、仄暗い熱を孕んでいる。
真尋「あなたを抱きしめてもいいですか、如月さん」
千華「…………!」
ぼふん、と顔が赤くなる千華。
千華「も、もう抱きしめてるでしょ……!」
真尋「返事は?」
千華「だからっ、もう抱きしめてる──」
真尋「ちゃんと返事をください。如月さんの、その口から」
千華(これはなにかの拷問ですか!)
プルプルと震える千華。
千華「…………は」
真尋「『は』?」
千華「恥ずかしいから無理ですっ!」
真尋の拘束を解き、千華はダッシュで体育倉庫を出る。そして玲那に抱きついた。驚く玲那。
玲那「わあっ! 千華ちゃんどうしたの」
何も言わない千華に「ふふ、甘えん坊だ」と微笑む玲那。
涼介「いいよな、抱きついても無言で迎えられるって。真尋は絶対俺を張り倒すのに」
玲那「それ、抱きついてくるなって事じゃない?」
亮介「名取ちゃん、辛辣」
一方、田崎と樹はというと。
樹は先に校舎へと帰っていった。
田崎は首に手を当てて、苦悶の表情を浮かべている。
田崎「いたた、これ絶対明日首死んでるわ。御厨、鍵閉めるからお前も出ろ」
鍵を閉めようとしたが、まだ体育倉庫内にいた真尋に、声をかける田崎。
横を通り過ぎる時、真尋は田崎に声をかけた。
真尋「先生」
田崎「お、なんだ。先生の首を心配してくれたか?」
真尋「首、逝ってますね。ご愁傷さまです」
それだけ言い残し、体育倉庫を出て行く真尋。去っていく背中を見つめる田崎。
田崎「…………いや、こっわ。そんなこと言うなよ」
〇最後はそれぞれの様子を描写。
昇降口で靴を履き替えている、まだ目元に朱が差していた樹。
涼介に「先に行くなよー」と、肩に手を回されて歩きながら、先程の千華と樹の体勢を思い出し不服そうな顔の真尋。
えへへ、と嬉しそうな顔をしている玲那と、まだ玲那に抱きつき顔が赤い千華。



