千華(少しつり目なのも、冷たい印象を与えちゃうのかも)
(……ううん。入学して一週間が経っているのに、まだ友達ができないのは、私が人見知りなのも悪いんだきっと!)
 
 とほほ、と千華は項垂れる。
 前を見ていなかったため、教室に入ろうとした際ドンッと誰かにぶつかった。

千華「きゃっ──」

 ぐらりと体が傾く千華。

千華(……倒れる!)

 目を閉じて備えるが衝撃は来ない。
 不思議に思い目を開けると、クラスメイトの御厨真尋に腰に腕をまわされ、体を支えられていた。

千華(──!!)
真尋「…………」

 真尋の顔を見て、目を見開く千華。
 喋るわけでもなく、じーーっと至近距離で千華を見つめる真尋。

千華(な、なにこれ、今どういう状況なの……?)

 その状態があまりにも長く、廊下にいた他の生徒たちの視線が集まり始めた。

女子生徒A「御厨(みくりや)くんだ。カッコいい〜!」
女子生徒B「え。てか、見つめあってない? あの二人」
女子生徒A「マジ?」

 耐えきれずに千華が「あ、あの!」と言えば、腰にまわした腕を解く真尋。

千華「ぶつかってごめんなさい、大丈夫?」
真尋「大丈夫です」

 そう言うと、千華から手を離して教室を出ていく真尋。
 その背中に「ありがとうっ」と言い、千華はサササッと自分の席に座り、ふぅと息を吐く。

千華(……御厨くんと、初めて喋ったかもしれない)

 自分でも気づかないうちに、ドッドッとはやく鳴っている心臓に手を当てた千華。

千華(だって──、御厨くんはいつも私を『見つめてくる』だけだから)