「王族を脅迫するなど言語道断ではありますが……」

 マシューは呆れ顔で証拠でもある脅迫状をヒラヒラさせた。

「だろ!? 逆恨みも良いところだ!」
「しかし、処刑はあまりにも罪が重すぎるというもの……殿下、ほどほどに」
「ふざけるな! その脅迫状のせいでミュリアとの婚約が危機に……」
「いえ、婚約の『危機』ではありません。もう破棄されましたから」

 しれっと重大な事を言うマシューに俺の動きは止まる。

「はっ? いや、だってまだ書類上は……」
「はぁ……どうも、こちらも手違いでですね……国王様が署名されたようで」

 はぁぁぁ!? 父上!! なにしでかしてんだよっ!

「手違いで済ますなっっ!!」
「急な事でしたので、こちらもバタバタしておりまして……どうも、決裁書類の中に紛れ込んでいたらしく……」

 俺は額に手を当て俯いた。
 
 何をどうしたら、決裁書類の中に俺の婚約契約書が紛れ込むんだよ!

「……おい……この王宮にはポンコツしかいないのか……?」
「そんな事ございません。優秀な人材を揃えております」
「どこがどう優秀なのか1分以内に説明してくれ! 逆にどこがどうポンコツなのか俺は1分以内に説明できるぞ!!」

 澄ました顔して、すっとぼけた事を言うマシューに俺は声を張り上げる。

 優秀な人材は手違いなんかしねーよっ。

「ポンコツの説明は、まぁそのうち伺います。あの時は、舞踏会5分前という切羽詰まった状況でしたしねぇ」
「それは脅迫状の(ぬし)に言え!! あんな分かりづらいところに脅迫状なんて入れるからっ。脅迫するなら、もっと早めにわかりやすく脅迫しろと!」
「その言い分もどうかと……」

 マシューは遠くを見ながらボソリと呟いた。