「こんなことして、ほんとうに大丈夫なんですか?」
「大丈夫だっつぅの。俺に全てを預けて。安心して。怖いことはなにもねぇから」

夕暮れ時の、暗く物悲しい店内。微かに耳に届くクラシックの音色が、どこか現実離れした空気を作り上げる。
カフェ裏はいつも秘事で溢れている。

「わたしもうお嫁にいけなくなっちゃう」

低く、けれども優しい声が直ぐ側で発せられる。肌をそっと撫でられて、つい、「んっ」と声を漏らしてしまう。
誰もいない店内。磨かれた床はひんやりと冷たくて、感じるのはただ、彼の体温だけ。

そんな状況。

「大丈夫だから。なんも、怖かねぇから」

背後から回された腕がぎゅっと身体を包み込む。怖がっているのはあなたのほうでしょ?なんていったら、怒るかな?

「怖くないよ」

わたしは言った。
彼に答えるように腕にそっと頬を擦り寄せれば、ピクっと彼の体が震えた。

「どこまでもふたり、いっしょだよ?」

にこっと笑ってわたしは彼に咬み付く。
今日も、彼の命を吸うために。


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街のハズレにひっそりと佇む『カフェ・ミラージュ』。店内はカウンターが4席とテーブルが5つ。決して広いとは言えないけれど、落ち着いていてどこか懐かしい

そのカフェは人の真実を映し出すらしい。

カフェの裏はいつも秘事で溢れている。