雨の中を歩いていく。 傘に当たる雨音を聞きながら。
彩葉もこうして並んで歩いていたんだ。 中学校まではね。
 つかさがよく言ってた。 「あんたたち、お似合いだよ。」って。
そんな時にも馬宮たちは面白半分で悪さをしてきた。 わざと水溜まりを跳ねたりしてね。
「やめろって言ってるだろう? いつになったらお前らは理解するんだ?」 「さあねえ。」
笑いながら水溜まりを跳ねて歩く。 つかさがものすごい顔で追い掛け回す。
「勉、捕まえて!」 「うわーーーー!」
「だからやめろって言ってんだ。 分かんねえやつだなあ。」 泥だらけになった馬宮を見て勉が冷たく笑っている。
 彩葉はぼくの後ろに隠れていて成り行きを見守っている。 通学路でもこうだったんだ。
油断も隙も無かったな。
 いつものようにコンビニに入る。 コーヒーを買ってレジへ、、、。
「おー、健太じゃないか。 久しぶりだな。」 3年先輩の山本さんである。
「あの子は元気にしてるのか?」 「あの子? あ、彩葉か。」
「そうそう。 彩葉ちゃん。」 「元気ですよ。 今年から通信制に通うんだって。」
「通信制? どっか悪いのか?」 「アレルギーが有って昼間は出れないんですよ。」
「そうか。 そうだったな。 やつらは?」 「やつら?」
「お前のクラスの悪そ坊主だよ。」 「ああ、馬宮たちね。 あいつらも相変わらずですよ。」
「やっぱ分からんか。 どうしようもない連中だなあ。」 山本さんは呆れたような顔をした。
 コーヒーを買ってまた雨の中を歩く。 車が走って行く。
遠くで雷が光った。 「おっかねえな。 早く帰ろう。」
 家に飛び込むと母さんが洗濯物を畳んでいた。 「お帰り。」
「すごい雨だねえ。」 「珍しいよ こんな雨は。」
 「彩葉ちゃんはどうだった?」 「元気だったよ。 国語の勉強をしてるんだって。」
「健太とはえらく違うねえ。 あんたも頑張りなさいよ。」 「分かってる。」
 「ねえねえ、お土産は?」 「無いよ。」
「えーーーーーーーー? 買ってこなかったの? 意地悪ーーーーーーーー。」 「近所だからさあ、いちいち買うわけが無いだろう?」
「妹にお土産も持ってこないなんてずるーーーーーーーい。」 「また始まった。」
「またって何よ? またって?」 「さあさあ昼休みだあ。」
「うわーー、逃げた。」 相変わらずの何処にでも居そうな兄妹である。
 父さんは事務所で設計図を見ながら苦しんでいる。 「ここをこうするとこうなるし、ここをこうするとこうなるんだよなあ。」
柱を動かし、物を動かし、外見も変えてみたりしている。 「うーーーん、これはちょっとなあ。」
 まあ着工までは時間が有るからいいけれど、、、。 それまで父さんは悩み続けるのかも?

 さてさて夕方になりました。 母さんはまたまたぼくと買い物に、、、。
最近は買い物が多いから荷物を持つのはぼくの仕事なんだ。 今日も多そうだなあ。
 売り場を回りながらふと前を見ると、、、。 「あらら、ミナッチじゃないか。」
カートを押しながら何気に見ているとミナッチもどうやら気付いたようです。 「あら、灰原君もお買い物?」
「そうです。 今日は棚に飛び込まないでくださいね。」 「うん。 大丈夫大丈夫。」
そう言って歩いているミナッチですが、どうも心配、、、。 あれやこれやと話しながら肉売り場へ来た時、、、。
 「掃除した後だな。」 母さんがポツリと言いました。 「ん?」
心配していると「キャー!」っていう声が、、、。 見に行くとミナッチが痛そうな顔で立ち上がった所。
 「何したの?」 ぼくが駆け寄るとミナッチは腰をさすりながら「滑っちゃった。」と苦笑い。
よく見ると床が濡れてまして、、、。 「これじゃあ滑るよなあ。」
大きな声で転んだもんだから近くに居た店員が渋い顔をして睨んでました。
 「ケガは無さそうね?」 「すいません。 二回も間抜けな所を見せてしまって、、、、。」
そこへ店長が飛んできた。 「おケガは有りませんか?」
「いえ、大丈夫です。」 「そうですか。 ならいいんだけど、、、。 おーい、ここはビショビショだぞ。 誰だ? 掃除したのは?」
 ミナッチの様子を確かめた店長は掃除をしていた店員を呼んで注意を始めました。
「それにしてもあの先生はドジだねえ。」 「母ちゃん まだ傍に居るから言わないの。」
「あら、ごめんごめん。」 母ちゃんは真っ赤になっているミナッチに謝ってからレジへ、、、。
 「今晩は何なの?」 「久しぶりにスパゲッティーでも作ろうかと思ってさあ。」 「パスタね。」
通りを走る車も水飛沫を上げていきます。 「嫌だなあ。 スカート濡れちゃうじゃないよ。」
 「ここも飛ばす車多いからなあ。」 「標識が有るのにねえ。」
「誰も見てないからいいんじゃないの?」 「そんなこと言ったって、、、。」
 「そっか、、、。 こないだは近所のおばちゃんが事故に遭ったんだよね。」 「そうだよそうだよ。」
「おばちゃんは大丈夫だったの?」 「分かんない。 おいちゃんとも会ってないし。」

 話しながら郵便局の傍にまで来ました。 ここもずいぶんと前に事故が有った場所。
大学生が車ごと家の壁に突っ込んで死んだんだったかな。 以来、この辺りではみんなが黙って足早に通り過ぎるようになった。
 兎にも角にも飛ばし過ぎだよ みんな。 狭い日本 そんなに慌てて何処に行く?
 家に帰ってくるとまだまだ父さんは帰ってきてなくて妹が寝転がってテレビを見てます。 「豚になるぞーーー。」
「やだなあ。 女の子に向かって豚だって。」 「ひどいお兄ちゃんだねえ。」
「お母さんも言ってやってよ。」 「お前が寝転がってるから言われるんだよ。」
「えーーーー? お母さん どっちの味方なの?」 「どっちの味方でもないわよ。」
「ずるーーーいずるーーーーい。」 「何言ってんだ? デブ。」
「うわーーーー、デブだって。 デブだって。」 「デブじゃないか。」
 毎日毎晩 この調子なんですよ。 二人とも生まれた時から仲がいいんだか悪いんだか、、、。
それでも食事となると仲がいいんですねえ。 おかずを分けたり取り合ったり、、、。
 「今夜はスパゲッティーだからね。」 母さんも(またやってるわ。)っていう顔で二人を見てます。
食べながらテレビを見ているとやっと父さんが帰ってきた。 「ファーーー、疲れた。」
「お疲れさま。」 「疲れるなんてもんじゃないよ。 へとへとだ。」
そう言いながら母さんが注いだビールを美味そうに飲んでます。 いいなあって感じ。
 ビルの設計もやっと半分くらい終わったんだって。 なんでも15階建てとか、、、。
そんなビルがこの辺に建つのかなあ? 何処に建つんだろう?
 (明日はどうなるのかなあ?) 勉やつかさたちの顔を思い出しながらふと考え込んでしまうぼく。
考え込んだってどうしようもないのにさあ。 でもやっぱり考えるんだよ。
 彩葉が居なくなったんだ。 ずっと傍に居た彩葉が、、、。
馬宮たちに虐められていた彩葉が居なくなってぼくの心はどうも空っぽになったような気がするんだ。
 もちろんね、好きとか嫌いとかそんなことを考えたことは無いんだよ。 いつも当たり前のように傍に居たから。
それが居なくなったんだ。 ぼくから彩葉がどんどん遠退いていくようなそんな気さえするんだよ。
 考え込んでいると母さんはぼくの顔を覗いて「そんなに寂しいんだったら彩葉ちゃんに会ってきなさいよ。」って言ってくる。
それほどでもないと思っているんだけどやっぱり寂しいんだね。 会えばいつまでも傍に居たいと思っている。
そして初めての週末が来た。