さてさて、高校に話を戻しましょうか。 今日はオリエンテーションの日です。
みんなはいつものようにバタバタと校門を走り抜け、挨拶もそこそこに教室へ飛び込んでいきます。 「挨拶くらいしたらどうなんだ?」
顔を顰める先生も居ますが、そんな悠長な暇は有りません。 だって電車が着くのはギリギリの時間なんだから。
「間に合ったあ。」 「ほんとだ。 ギリギリじゃあ閉め出されちゃうわよ。」
「駅伝か何かの練習をしてるみたいだな。」 「お、揃ってるな。」
みんながざわついている所へ担任が入ってきました。 「起立! 礼! 着席!」
「よし。 じゃあ今日はオリエンテーションだ。 今年の君たちは第一期生だから思う存分に意見を出してもらいたい。 部活だって作って行くし、もちろん勉強もそれなりに頑張ってもらうけどな。」
先生は今日も厳しい顔で馬宮たちを見詰めている。 「何かおかしいか?」
「いえ、、、。」 「訳も無いのにヘラヘラするな。 いいか。」
「は、、、、、はい。」 「返事は「はい。」でいい。 余計なことは言うな。」
ホームルームが終わるとみんなは固まって講堂へ、、、。 部活の説明やら顧問の紹介やら、体操服の引き渡しやら、、、。
体操服は意外と地味。 胸には校章が、そして袖口には名前が縫ってある。
つかさは体操服を持ってキャーキャー言ってるし、相沢君たちは何かひそひそと話している。 ぼくはなぜか、寂しさを感じていた。
そう、そこに彩葉の姿が無かったからだ。 彩葉は言っていた。
「私ね、市立大宮南の通信制に通うんだ。 自分で勉強しなきゃなの。」
「それで大丈夫なの?」 「分かんない。 数学は大の苦手だし、英語はさっぱり分からないし、どうしたらいいのかなあ?」
「数学は勉に助けてもらえばいいよ。 英語はあの子が居るし、、、。」 「そっか。 でも不安だなあ。」
教科書を山積みした机をぼんやりと眺めながら二人で溜息を吐いたんだ。
部活は取り合えず、野球 バスケ バレー 放送 演劇の顧問が発表されて各自で入部を検討することになった。
演劇部は顧問がなんとあのミナッチである。 「大丈夫なの?」ってつかさが聞いてきた。
「そんなの、やってみないと分かんないよ。」 相沢がポツリと返す。
教室へ戻ってくるとみんなはまた大騒ぎを始める。 とにかく普通科は元気だけが取り柄のようだ。
ぼくは取り合えず部活には参加しないことにした。 嫌いなわけじゃないんだけど、やれそうな気がしなくてね。
その日も午前中のドタバタが終わって下校時間となりました。 「じゃあ、また明日ね。」
みんなは賑やかに挨拶を交わして昇降口から出て行きます。 ぼくも後を追い掛けるように出てきました。
そんなぼくらをじっと見詰めながら折原さんもゆっくりと出てきました。 (いつもマイペースだな、、、。)
何気に靴を履いて出てくる折原さんを見詰めているんですけど、、、。 「何見てるの?」って言いたそうな顔だったから急いで駅のほうに目をやりました。
そう、これといって発言するでもなく、何をするでもなく、与えられた物を与えられたようにこなしているだけ。 それがまたなぜか際立って見えてしまう。
浮いてるわけでもなく特別なわけでもなく、だからって無視されているわけでもない。 そんな折原さんがぼくにはどうも気になってしまって、、、。
「家は近いんですか?」 「え?」
校門を出たところで折原さんがいきなり聞いてきた。 「ここから電車で30分くらいかな。」
「そうなんですね。 確か反対側ですよね?」 「うん。」
「また明日もよろしくお願いします。」 「あ、よろしく。」
入学式の日、隣に座ってドキッとした女の子と話せたんだ。 ぼくは嬉しかった。
弾む思いのまま、電車に乗る。 「明日もこうだといいなあ。」
ブツブツ言いながら窓の外に目をやる。 遠くには山も見える。
子供の頃、父さんと歩いたことが有る山だ。 ぼんやりと山を見詰めていたらガシャンという音がして電車が止まった。
「申し訳ございません。 踏切内で乗用車と接触しました。 事故処理を終わるまでしばらくお待ちください。」
一つ目の駅を出たところである。 どうもぶつかったのは軽乗用車らしい。
警察やら救急車やらカメラやら、いろんな人たちが取り囲んでいる。
(しばらく掛かりそうだな。) ぼくはスマホを取った。
「健太かい? どうしたんだ?」 出たのは父さんだ。
「今さ、電車に乗ってるんだ。 吉田川駅を出たところなんだけど、踏切で事故っちゃってさ、、、。」 「事故った? お前は大丈夫なのか?」
「うん。 ぼくらは大丈夫。 車とぶつかっただけだから。」 「しばらく掛かりそうだな。」
「かもしれないな。 警察も来てるから。」 「気を付けて帰ってくるんだぞ。」
電話を切ったぼくはまた窓の外に目をやった。 30分ほどして衝突した車が動かされ、辺りの点検を終えてから電車は走り始めた。
「皆様にお知らせいたします。 この電車は衝突事故の影響で次の駅までの運行となりました。 よって後続の電車に乗り換えていただく必要が有ります。 ご迷惑をおかけしますが、、、。」
(まいったな、、、。 次の電車だと40分くらい待つのか、、、。) あれやこれやと考えてみた結果、清秋寺駅からバスに乗り換えることにした。
電車はゆっくりと走っている。 新学期早々の事故である。 今年は大変な年になるかも、、、?
そんでもってあんまり乗らないバスに乗り換えたのであるが、、、。 どっかで見たような人が乗ってる。
(誰だろう?)と思ってよくよく見てみると彩葉の5歳上の兄さんだ。 今年二十歳になったんだって。
(バイトでもしてるのかな? でもそれじゃ、、、。) 彩葉の兄 芳樹は短大を出てどっかで働く打の修行するだのって話を聞いたことが有ったけど。
前のほうに座っているからか、ぼくのことには気付かないらしい。 何気にチラチラと見ていたら四つ目くらいのバス停で降りてしまった。
(結局、気付かなかったな。 でもこんな時間に何をしてるんだろう?) 家に帰るまでその疑問は消えなかった。
「お帰り。 今日はオリエンテーションだったんだろう? どうだった?」 母さんが洗濯物を畳みながら聞いてきた。
「いやいや、部活もいろいろと始まるみたいだよ。」 「そうかい。 でも普通科だけなんだろう?」
「そうだねえ。 でもさ演劇部の顧問がミナッチなんだって。」 「ミナッチ?」
「ほら、棚に突撃したあの先生だよ。」 「ああ、ああ、あの小柄な先生ね?」
「大丈夫かなあ?」 「何が?」
「あの先生でやっていけるのかな?」 「それはあんた、やってみないと分かんないよ。」
「それもそうだね。」 ぼくは部屋に戻った。
制服を脱いでジーパンに、、、。 寝転がろうとしたらスマホが鳴った。
(誰だろう)と思ったら、、、相沢君だ。 「よう、健太君 ゲームやらないか?」
「うーん、後でね。」 「付き合い悪いなあ。」
それだけ言うと電話は切れた。 机の上には中学の卒業写真が飾ってある。
彩葉はぼくとつかさの間で寂しそうに笑っている。 虐めが続いてたんだもんな。
いつだったか、どっかの書き込みで小学生時代に性被害を受けたっていうおじさんのブログを読んだことが有る。 あれはあれでひどい話だよな。
寮に居て寝ている間に素っ裸にされて弄ばれるなんて、、、。 抵抗する暇は無かったって書いてあったな。
男の子が男の先輩の夜のおもちゃにされるってどんな気分なんだろう? 弄んだその人は後悔したりしないのかな?
卑怯だよね。 自分はたらふく気持ちいい思いをして後輩の人生をズタズタにするなんて、、、、。
でも印象的だった。 恨むくらいなら俺は最高の職人になってやるんだって。
仕事でそいつを見返すんだって。 そう決めてここまでやってきたんだって。
そうだよなあ、怨んでみたってたかが知れてるよ。 恨むだけじゃ何も解決しない。
それよりは「これだ!」って決めた仕事で勝ってやる。 そのほうがいいよな。
ぼくにはどうも、、、。
みんなはいつものようにバタバタと校門を走り抜け、挨拶もそこそこに教室へ飛び込んでいきます。 「挨拶くらいしたらどうなんだ?」
顔を顰める先生も居ますが、そんな悠長な暇は有りません。 だって電車が着くのはギリギリの時間なんだから。
「間に合ったあ。」 「ほんとだ。 ギリギリじゃあ閉め出されちゃうわよ。」
「駅伝か何かの練習をしてるみたいだな。」 「お、揃ってるな。」
みんながざわついている所へ担任が入ってきました。 「起立! 礼! 着席!」
「よし。 じゃあ今日はオリエンテーションだ。 今年の君たちは第一期生だから思う存分に意見を出してもらいたい。 部活だって作って行くし、もちろん勉強もそれなりに頑張ってもらうけどな。」
先生は今日も厳しい顔で馬宮たちを見詰めている。 「何かおかしいか?」
「いえ、、、。」 「訳も無いのにヘラヘラするな。 いいか。」
「は、、、、、はい。」 「返事は「はい。」でいい。 余計なことは言うな。」
ホームルームが終わるとみんなは固まって講堂へ、、、。 部活の説明やら顧問の紹介やら、体操服の引き渡しやら、、、。
体操服は意外と地味。 胸には校章が、そして袖口には名前が縫ってある。
つかさは体操服を持ってキャーキャー言ってるし、相沢君たちは何かひそひそと話している。 ぼくはなぜか、寂しさを感じていた。
そう、そこに彩葉の姿が無かったからだ。 彩葉は言っていた。
「私ね、市立大宮南の通信制に通うんだ。 自分で勉強しなきゃなの。」
「それで大丈夫なの?」 「分かんない。 数学は大の苦手だし、英語はさっぱり分からないし、どうしたらいいのかなあ?」
「数学は勉に助けてもらえばいいよ。 英語はあの子が居るし、、、。」 「そっか。 でも不安だなあ。」
教科書を山積みした机をぼんやりと眺めながら二人で溜息を吐いたんだ。
部活は取り合えず、野球 バスケ バレー 放送 演劇の顧問が発表されて各自で入部を検討することになった。
演劇部は顧問がなんとあのミナッチである。 「大丈夫なの?」ってつかさが聞いてきた。
「そんなの、やってみないと分かんないよ。」 相沢がポツリと返す。
教室へ戻ってくるとみんなはまた大騒ぎを始める。 とにかく普通科は元気だけが取り柄のようだ。
ぼくは取り合えず部活には参加しないことにした。 嫌いなわけじゃないんだけど、やれそうな気がしなくてね。
その日も午前中のドタバタが終わって下校時間となりました。 「じゃあ、また明日ね。」
みんなは賑やかに挨拶を交わして昇降口から出て行きます。 ぼくも後を追い掛けるように出てきました。
そんなぼくらをじっと見詰めながら折原さんもゆっくりと出てきました。 (いつもマイペースだな、、、。)
何気に靴を履いて出てくる折原さんを見詰めているんですけど、、、。 「何見てるの?」って言いたそうな顔だったから急いで駅のほうに目をやりました。
そう、これといって発言するでもなく、何をするでもなく、与えられた物を与えられたようにこなしているだけ。 それがまたなぜか際立って見えてしまう。
浮いてるわけでもなく特別なわけでもなく、だからって無視されているわけでもない。 そんな折原さんがぼくにはどうも気になってしまって、、、。
「家は近いんですか?」 「え?」
校門を出たところで折原さんがいきなり聞いてきた。 「ここから電車で30分くらいかな。」
「そうなんですね。 確か反対側ですよね?」 「うん。」
「また明日もよろしくお願いします。」 「あ、よろしく。」
入学式の日、隣に座ってドキッとした女の子と話せたんだ。 ぼくは嬉しかった。
弾む思いのまま、電車に乗る。 「明日もこうだといいなあ。」
ブツブツ言いながら窓の外に目をやる。 遠くには山も見える。
子供の頃、父さんと歩いたことが有る山だ。 ぼんやりと山を見詰めていたらガシャンという音がして電車が止まった。
「申し訳ございません。 踏切内で乗用車と接触しました。 事故処理を終わるまでしばらくお待ちください。」
一つ目の駅を出たところである。 どうもぶつかったのは軽乗用車らしい。
警察やら救急車やらカメラやら、いろんな人たちが取り囲んでいる。
(しばらく掛かりそうだな。) ぼくはスマホを取った。
「健太かい? どうしたんだ?」 出たのは父さんだ。
「今さ、電車に乗ってるんだ。 吉田川駅を出たところなんだけど、踏切で事故っちゃってさ、、、。」 「事故った? お前は大丈夫なのか?」
「うん。 ぼくらは大丈夫。 車とぶつかっただけだから。」 「しばらく掛かりそうだな。」
「かもしれないな。 警察も来てるから。」 「気を付けて帰ってくるんだぞ。」
電話を切ったぼくはまた窓の外に目をやった。 30分ほどして衝突した車が動かされ、辺りの点検を終えてから電車は走り始めた。
「皆様にお知らせいたします。 この電車は衝突事故の影響で次の駅までの運行となりました。 よって後続の電車に乗り換えていただく必要が有ります。 ご迷惑をおかけしますが、、、。」
(まいったな、、、。 次の電車だと40分くらい待つのか、、、。) あれやこれやと考えてみた結果、清秋寺駅からバスに乗り換えることにした。
電車はゆっくりと走っている。 新学期早々の事故である。 今年は大変な年になるかも、、、?
そんでもってあんまり乗らないバスに乗り換えたのであるが、、、。 どっかで見たような人が乗ってる。
(誰だろう?)と思ってよくよく見てみると彩葉の5歳上の兄さんだ。 今年二十歳になったんだって。
(バイトでもしてるのかな? でもそれじゃ、、、。) 彩葉の兄 芳樹は短大を出てどっかで働く打の修行するだのって話を聞いたことが有ったけど。
前のほうに座っているからか、ぼくのことには気付かないらしい。 何気にチラチラと見ていたら四つ目くらいのバス停で降りてしまった。
(結局、気付かなかったな。 でもこんな時間に何をしてるんだろう?) 家に帰るまでその疑問は消えなかった。
「お帰り。 今日はオリエンテーションだったんだろう? どうだった?」 母さんが洗濯物を畳みながら聞いてきた。
「いやいや、部活もいろいろと始まるみたいだよ。」 「そうかい。 でも普通科だけなんだろう?」
「そうだねえ。 でもさ演劇部の顧問がミナッチなんだって。」 「ミナッチ?」
「ほら、棚に突撃したあの先生だよ。」 「ああ、ああ、あの小柄な先生ね?」
「大丈夫かなあ?」 「何が?」
「あの先生でやっていけるのかな?」 「それはあんた、やってみないと分かんないよ。」
「それもそうだね。」 ぼくは部屋に戻った。
制服を脱いでジーパンに、、、。 寝転がろうとしたらスマホが鳴った。
(誰だろう)と思ったら、、、相沢君だ。 「よう、健太君 ゲームやらないか?」
「うーん、後でね。」 「付き合い悪いなあ。」
それだけ言うと電話は切れた。 机の上には中学の卒業写真が飾ってある。
彩葉はぼくとつかさの間で寂しそうに笑っている。 虐めが続いてたんだもんな。
いつだったか、どっかの書き込みで小学生時代に性被害を受けたっていうおじさんのブログを読んだことが有る。 あれはあれでひどい話だよな。
寮に居て寝ている間に素っ裸にされて弄ばれるなんて、、、。 抵抗する暇は無かったって書いてあったな。
男の子が男の先輩の夜のおもちゃにされるってどんな気分なんだろう? 弄んだその人は後悔したりしないのかな?
卑怯だよね。 自分はたらふく気持ちいい思いをして後輩の人生をズタズタにするなんて、、、、。
でも印象的だった。 恨むくらいなら俺は最高の職人になってやるんだって。
仕事でそいつを見返すんだって。 そう決めてここまでやってきたんだって。
そうだよなあ、怨んでみたってたかが知れてるよ。 恨むだけじゃ何も解決しない。
それよりは「これだ!」って決めた仕事で勝ってやる。 そのほうがいいよな。
ぼくにはどうも、、、。



