保護者会が緊急の説明会を開いた。 そこにはぼくの父さんも居た。
「だいたいさ、これまで虐め抜いてきたことにだって謝罪すら無いわけでしょう? そこからしておかしいんじゃないのか?」
「いやいや、それは分かるけど、今はそれどころじゃないんだ。 誰が花束と黒縁の、、、。」 「虐めがエスカレートした結果でしょう? あんたらにも同等の責任が有るんじゃないのかい?」
「それとこれとは別問題です。 一緒にしないでください。」
説明会は冒頭から激論が交わされている。 2時間経っても議論は噛み合わない。
教育委員会から送られた人たちもただただ困惑するだけで事態の解決には結び付かないようだ。 「まいったなあ。 あれじゃあ彩葉ちゃんが可哀そうだ。」
家に帰ってきた父さんは酒を飲みながら深刻な顔をしている。 「そんなにひどいの?」
「ひどいなんてもんじゃないよ。 保護者会の連中は擦り合いばかりだ。 教委だってはっきりしたことは言わないし、、、。」
翌日は土曜日。 ぼくは昼から彩葉の家へ遊びに行った。
「まあまあ、健太君 来てくれたのね?」 「心配だから、、、。」
「どうもねえ、元気が無いのよ。 心配するなって言っても落ち込んだまんまなの。」 そりゃそうだよな。
ずっと以前にも葬式ごっこで自殺に追い込まれた人が居た。 そうならなければいいけど、、、。
部屋に入ってみる。 「来てくれたの?」
彩葉はぼんやりとラジオを聞いていた。 窓もカーテンも閉められたままだ。
「ぼくらが傍に居るんだ。 心配は無いよ。」 「でもさ、、、。」
「今、先生たちも必死に探してる。 きっと分かるよ。」 「だといいけどな。」
前の日にはつかさも来たらしい。 お菓子まで持ってきて一緒に食べながら話したんだって。
「つかさも、ああ見えて彩葉のことを人一倍心配してるんだよ。」 「嬉しいけどさ、あんまり心配し過ぎても、、、。」
「大丈夫だって。 ぼくらは友達なんだから。 つかさのことも任せとけばいいって。」 「そうだよね。」
「まずは彩葉があんまり落ち込まないことだよ。 落ち込んでるとさあ、ぼくらまで心配になっちゃうから。」 「ありがとう。」
初めてぼくは彩葉の手を握った。 柔らかい手だ。
(これ以上誰にも虐めさせないぞ。) ぼくははっきりと決意したんだ。
それでも犯人は見付からなかった。 先生たちも焦り始めた。
新聞も葬式ごっこのニュースを伝え始めた。 教委も黙り込んでしまった。
ぼくの父さんは警察に動いてもらうことも考えたが、さすがにそれはやり過ぎだと思って先生たちの動きを見守ることにしたようだ。
事件から十日ほどが過ぎて小学校も春休みに入った。 先生たちはそれでもなお、家庭訪問を続けている。
四年生の担任、倉本英輔は朝から家庭訪問を続けていた。 「またその話ですか?」
「何回同じ話をすれば気が済むんですか?」 文句ばかり言われて疲れてきていた。
13軒目の家庭訪問をしようとしたその時、彼は植木越しに何かが揺れているのが見えた気がした。 (あれは何だろう?)
その家は電器屋の息子 木村太一郎の家である。 庭もなかなかに大きくて広い。
二階建てでリビングも広くて彼は思わず縮こまってしまったのを覚えている。
一度、彼は裏へ回った。 そして木戸の隙間から庭を覗いた。 すると、、、。
「あ、、、、、、、、。」 庭の高い木にぶら下がっている女の姿を見付けた彼は咄嗟に木戸を蹴り破って飛び込んで行った。
「お母さんじゃないか! どうしたんです?」 太一郎の母親 静子である。
普段は物静かで事を荒らげることも嫌うような人がなぜ?
その足元にノートが落ちているのを見付けた英輔は無我夢中で捲ってみた。
『今回、彩葉さんに花束を送ったのは私なんです。 先輩の女の子が死んだって息子から聞いたんです。
でもそれは彩葉さんではなかった。 騒ぎになってから別人であることを知りました。
もうこの騒ぎを止めることは出来ません。 出来居るのは私だけです。
皆さん、本当に申し訳ありませんでした。
私の些細な勘違いがこんな大事件を起こすとは思ってもみませんでした。
私の命に代えて謝ります。 さようなら。』
「勝手すぎるよ。 太一郎君はこれからどうするんだ?」 英輔は庭に蹲って男泣きに泣いた。
静子の遺体は父親によって枝から下ろされたが、その場に太一郎は居なかった。
その前夜、静子に言われて親戚の家に泊まりに行っていたらしい。
事件は何とも言えない衝撃的な幕引きをした。 保護者会はいつものように事実だけを報告してきた。
太一郎が話した先輩とは、、、。 中学3年の岸本梓のことだった。
梓は去年の秋から入院していてここ数日は意識が無かったのである。
梓の妹、真理恵が太一郎の同級生で、、、。 梓が死んだことを聞いた時、彩葉が死んだものと勘違いしたという。
「何処でどうやったらそんな勘違いをするんだ?」 「分かんねえよ。 でも真理恵は彩葉が嫌いだったろう? だからじゃないのか?」
「でも、それにしたってひどすぎるよ。 いくら何でも姉ちゃんと彩葉をごっちゃにするなんて、、、。」
「兎にも角にも真理恵のことは彩葉には喋るなよ。 傷付くだけだから。」 吉岡さんまでがそうやってぼくに言ってきたんだ。
変な事件だった。 そしてぼくらは中学生になった。
「だいたいさ、これまで虐め抜いてきたことにだって謝罪すら無いわけでしょう? そこからしておかしいんじゃないのか?」
「いやいや、それは分かるけど、今はそれどころじゃないんだ。 誰が花束と黒縁の、、、。」 「虐めがエスカレートした結果でしょう? あんたらにも同等の責任が有るんじゃないのかい?」
「それとこれとは別問題です。 一緒にしないでください。」
説明会は冒頭から激論が交わされている。 2時間経っても議論は噛み合わない。
教育委員会から送られた人たちもただただ困惑するだけで事態の解決には結び付かないようだ。 「まいったなあ。 あれじゃあ彩葉ちゃんが可哀そうだ。」
家に帰ってきた父さんは酒を飲みながら深刻な顔をしている。 「そんなにひどいの?」
「ひどいなんてもんじゃないよ。 保護者会の連中は擦り合いばかりだ。 教委だってはっきりしたことは言わないし、、、。」
翌日は土曜日。 ぼくは昼から彩葉の家へ遊びに行った。
「まあまあ、健太君 来てくれたのね?」 「心配だから、、、。」
「どうもねえ、元気が無いのよ。 心配するなって言っても落ち込んだまんまなの。」 そりゃそうだよな。
ずっと以前にも葬式ごっこで自殺に追い込まれた人が居た。 そうならなければいいけど、、、。
部屋に入ってみる。 「来てくれたの?」
彩葉はぼんやりとラジオを聞いていた。 窓もカーテンも閉められたままだ。
「ぼくらが傍に居るんだ。 心配は無いよ。」 「でもさ、、、。」
「今、先生たちも必死に探してる。 きっと分かるよ。」 「だといいけどな。」
前の日にはつかさも来たらしい。 お菓子まで持ってきて一緒に食べながら話したんだって。
「つかさも、ああ見えて彩葉のことを人一倍心配してるんだよ。」 「嬉しいけどさ、あんまり心配し過ぎても、、、。」
「大丈夫だって。 ぼくらは友達なんだから。 つかさのことも任せとけばいいって。」 「そうだよね。」
「まずは彩葉があんまり落ち込まないことだよ。 落ち込んでるとさあ、ぼくらまで心配になっちゃうから。」 「ありがとう。」
初めてぼくは彩葉の手を握った。 柔らかい手だ。
(これ以上誰にも虐めさせないぞ。) ぼくははっきりと決意したんだ。
それでも犯人は見付からなかった。 先生たちも焦り始めた。
新聞も葬式ごっこのニュースを伝え始めた。 教委も黙り込んでしまった。
ぼくの父さんは警察に動いてもらうことも考えたが、さすがにそれはやり過ぎだと思って先生たちの動きを見守ることにしたようだ。
事件から十日ほどが過ぎて小学校も春休みに入った。 先生たちはそれでもなお、家庭訪問を続けている。
四年生の担任、倉本英輔は朝から家庭訪問を続けていた。 「またその話ですか?」
「何回同じ話をすれば気が済むんですか?」 文句ばかり言われて疲れてきていた。
13軒目の家庭訪問をしようとしたその時、彼は植木越しに何かが揺れているのが見えた気がした。 (あれは何だろう?)
その家は電器屋の息子 木村太一郎の家である。 庭もなかなかに大きくて広い。
二階建てでリビングも広くて彼は思わず縮こまってしまったのを覚えている。
一度、彼は裏へ回った。 そして木戸の隙間から庭を覗いた。 すると、、、。
「あ、、、、、、、、。」 庭の高い木にぶら下がっている女の姿を見付けた彼は咄嗟に木戸を蹴り破って飛び込んで行った。
「お母さんじゃないか! どうしたんです?」 太一郎の母親 静子である。
普段は物静かで事を荒らげることも嫌うような人がなぜ?
その足元にノートが落ちているのを見付けた英輔は無我夢中で捲ってみた。
『今回、彩葉さんに花束を送ったのは私なんです。 先輩の女の子が死んだって息子から聞いたんです。
でもそれは彩葉さんではなかった。 騒ぎになってから別人であることを知りました。
もうこの騒ぎを止めることは出来ません。 出来居るのは私だけです。
皆さん、本当に申し訳ありませんでした。
私の些細な勘違いがこんな大事件を起こすとは思ってもみませんでした。
私の命に代えて謝ります。 さようなら。』
「勝手すぎるよ。 太一郎君はこれからどうするんだ?」 英輔は庭に蹲って男泣きに泣いた。
静子の遺体は父親によって枝から下ろされたが、その場に太一郎は居なかった。
その前夜、静子に言われて親戚の家に泊まりに行っていたらしい。
事件は何とも言えない衝撃的な幕引きをした。 保護者会はいつものように事実だけを報告してきた。
太一郎が話した先輩とは、、、。 中学3年の岸本梓のことだった。
梓は去年の秋から入院していてここ数日は意識が無かったのである。
梓の妹、真理恵が太一郎の同級生で、、、。 梓が死んだことを聞いた時、彩葉が死んだものと勘違いしたという。
「何処でどうやったらそんな勘違いをするんだ?」 「分かんねえよ。 でも真理恵は彩葉が嫌いだったろう? だからじゃないのか?」
「でも、それにしたってひどすぎるよ。 いくら何でも姉ちゃんと彩葉をごっちゃにするなんて、、、。」
「兎にも角にも真理恵のことは彩葉には喋るなよ。 傷付くだけだから。」 吉岡さんまでがそうやってぼくに言ってきたんだ。
変な事件だった。 そしてぼくらは中学生になった。



