春色ドロップス

 「私も馬宮君たちにはいっぱいやられたよ。」 「やられた?」
「うん。 小学生の時から虐められてたの。」 「彩葉ちゃんが?」
「そう。 私を守ってくれてたのは健太君とつかさちゃんと勉君。」 「そっか。 だからいつも三人で話してたんだ。」
 「つかさちゃんは馬宮君たちにいつもお説教をしてくれた。 勉君は馬宮君たちをいつも抑えてくれてた。 健太君はいつも私を庇ってくれたの。」 「そうだったんだね。 知らなかった。」
 「無理無いよ。 折原さんは高校から一緒になったんでしょう?」 「うん。 でももっと早く知りたかったなあ。」
 「喋らないようにしようって決めてたんだよ。 つかさや勉たちと。」 「何で?」
「だってさあ、あんまりにもひどいことばかりやってたんだもん。」 「そうなの?」
 「一番ひどかったのは葬式事件だね。」 「葬式?」
「そう。 卒業式の日に彩葉の机に花束を置いた人が居るんだ。 それも白菊を。」 「白菊? 馬鹿にしてるみたいね。」
「ついでに黒板には黒縁の写真が貼られてたんだ。」 「そんなことまで?」
 彩葉はこの話をするとすごく嫌そうな顔をする。 今でも傷付いてるって言ってたっけな。
「誰がそんなことを?」 「4年生の子のお母さんが勘違いして作ったんだって。」 「何でそんなことを?」
「その子の親戚の女の子が病気で死んだんだ。 それをさ、彩葉が死んだって言ったらしいんだ。」 「真に受けちゃったのね。 どうしようもないなあ。」
 「女の子が病気で死んだって?」 「そう。 この話は彩葉には話してなかったね。」
「何で?」 「その子のことは言うなって先輩たちに留められてたんだよ。 彩葉も嫌いな子だからって。」
「そうだったの? そこまで私に気を使ってたのね?」 「もちろん、つかさも勉も知ってるよ。 でもつかさたちも喋らないように止められてたんだよ。」
「そうだったのか。」 彩葉は複雑な顔でぼくを見た。
 「じゃあ、ぼくらは帰るね。」 「うん。 今度の誕生会も楽しみにしてるね。 みんなには迷惑ばかり掛けるけど。」
「迷惑なんて思ってないから安心してね。 彩葉ちゃん。」 「ありがとう。」

 彩葉の家を出たぼくらは駅への通りを歩いている。 「灰原君ってさあ、優しい人だね。」
「そうかなあ? ぼくはただ弱いだけだよ。」 「でもずっと彩葉ちゃんの傍に居てくれたんでしょう?」
「それはそうだけど、、、。」 「私もずっと傍に居たいなあ。」
「大丈夫だよ。 彩葉はああ見えてしっかりしてるから。」 「そうだねえ。 強そうな人だよね。」
 ポツポツと雨が降り始めた。 「本降りになる前に帰ったほうがいいよ。 私も走るから。」
「そうだね。 じゃあまた明日。」 ぼくはそう言うと走っていく折原さんを見送った。

 玄関に飛び込むとスマホが鳴った。 (誰だろう?)
取り出してみると馬宮じゃない。 電話もメールもするなって言われてるのに、、、。
 2分ほど鳴って静かになると今度はお嬢から掛かってきた。 「珍しいね。 何か有ったの?」
「さっきさあ、馬宮君から電話が掛かってきて出ちゃったのよ。」 「それってやばいんじゃないの?」
「そう思う? だよねえ。 あたし怒られちゃう。」 「たぶんさあ、みんなに掛けて回ってるんじゃないのかなあ?」
「何で?」 「ぼくにも掛かってきたから。」
「そうなの? みんな揃って怒られちゃうじゃない。」 「どうかなあ?」
 「まあねえ、あの先生次第よね。」 「だと思うよ。 つかさとか勉なら出ないだろうし。」
「分かった。 また明日ね。」 お嬢が電話を切ると母ちゃんの声が聞こえた。
 「誰か何かやらかしたのかい?」 「馬宮が謹慎させられたの。」
「何で?」 「あんまりにも騒ぎ過ぎるから。」
「へえ。 校長さん 意外と厳しいんだなあ。」 「みたいだよ。」
 「お前はどうなんだ? 女の子に手を出したりしてないだろうなあ?」 「出すような子も居ないよ。」
「えーーーーーー? そんなに鶏ガラばかりなの?」 「そうじゃないけど、、、。」
「じゃあお多福饅頭ばかりなのか?」 「そういうわけでもないよ。」
「そうかそうか。 お前は昔から彩葉ちゃんだもんなあ。」 「グ、、、。」
 夕食を済ませるとお風呂へ、、、。 脱衣所のドアを開ける。
「うわーーーーー、エッチーーーーーー。」 まだまだ服を着る途中の郁子が居た。
「のろま。」 「兄ちゃんよりは速いですーーーーーー。」
「憎たらしいやつだなあ。」 「女ですから。」
「それは関係無いだろう。 馬鹿。」 「今度は馬鹿にしたーーーーーー。」
「いちいちうるさい。 さっさと出ろ。」 「言われなくても出てやりますよーーーーだ。」
 郁子が出て行くと湯をかぶって天井を仰ぐ。 おっさんみたいだなあ。