春色ドロップス

 盛り上がっている所におばさんが出てきた。 「写真撮ってもいいかなあ?」
「じゃあ、こいつのアホな顔を撮ってよ。」 つかさが勉を指差す。
「うーーーん、アホ過ぎて撮れないわ。」 「おばさん、それは言い過ぎじゃ?」
「いいのいいの。 こういう晴れの日には冗談くらい言わないとねえ。」 「だから冗談になってないんだってば。」
 ぼくが心配して勉を覗くと、、、。 何も無かったような顔でお茶を飲んでいた。
(神経図太いな こいつ。) 「ねえねえトランプやらない?」
 そこへミナッチが身を乗り出してきた。 「トランプ? 何するの?」
「ポーカーでもいいかと、、、。」 「それって灰原君?」
「それはポカーンだよ。 つかさ。」 「ばれたか。」
 「じゃあさあみんなカード取ってくれる?」 「よしよし。 ロイヤルストレートフラッシュを狙うぞ。」
「勉、大きなことは言わないほうがいいと思うけど、、、。」 「たまにはいいじゃんか。」
「たまにはねえ。」 「何だよ?」
「いーーーーーーーーーっつも言ってるような気がするけど、、、。」 「そんななあ、いーーーーーーーーーーーっつもは言ってないから。」
「まあまあ、もめないもめない。」 ミナッチは彩葉にもカードを渡しながら皆を見回した。
「じゃあ、折原さんから回そう。」 「うーーーーん、揃わないなあ。」
 それから20分ほど恐ろしいほどに真剣な顔でカードを引いてますが、、、。 「よしよし。 結果発表だ。」
 健太 2と5のフルハウス。
 つかさ 1のフォーカード。
 ミナッチ スペードのストレート。
 由紀 8とqのフルハウス。
 彩葉 ダイヤのロイヤルフラッシュ。
 勉 、、、、、、、、、、、、、、。
 なぜか勉だけしょんぼりしてる。 おばさんがそれを見かねてコーヒーゼリーを持ってきた。
「じゃあさあ2回戦やろうよ。」 今夜のミナッチはどっか元気がいい。
またまたトランプに夢中になっているぼくら、、、。 その結果は?

 健太 ハートのストレート。
 彩葉 qと10のフルハウス。
 ミナッチ クラブのストレート。
 由紀 2のスリーカード。
 つかさは5のワンペア。
 勉は7のフォーカードでした。
まあまあかなあ。

 こうして盛り上がっていても時計の針は進んでいくもの。 8時55分になりました。 「じゃあさあみんなでメアドを交換してお開きにしましょうか。」
「そうだね。 彩葉。」 「いつでもメールしてね。 遊びに行くから。」
「健太は何も言わなくていいのかなあ?」 「ぼくはいつも会ってるから、、、。」
「ごめんごめん。 お前は彩葉の彼氏だったな。」 「そんなんじゃないけど、、、。」
「勉、突っ込まないの。」 「いいじゃん。 たまには。」
「あんたの突っ込みはいっつもでしょうが。」 「まあまあ、喧嘩しないの。」
 ピピー。 店の外でクラクションが聞こえた。
「お迎えだね。」 「つかさ、まだ死んでないから。」
「そういう意味じゃなくてーーーーー。」 やっぱりこいつら仲がいいんだなあ。
 ドアを開けて店を出るとおばさんも飛び出してきた。 「またまたみんなで騒ぎに来てね。」
「ちょいと、騒ぎにってのは余計なんだけど。」 「いいじゃん。 これだけ元気が余ってりゃあ騒いだっていいわよ。」
そんなぼくらに彩葉が振り向いた。 「みんなありがとう。 折原さんもこれからよろしくね。 お休み。」
「ああ。 頑張れよ。 俺たちも応援してるからなあ。」 「勉、頑張れは余計だってば。」
 彩葉を乗せた車が行ってしまうとぼくらもそれぞれに家路に向かうのでした。 大変だったなあ。

 翌日は月曜日。 教室は相変わらずの大騒ぎ。
「待てーーーーーー‼」 「またやってんのか。 ボケナス。」
「いいじゃん。 ほっとこうよ。」 「あんなんで死んでもらっても困るからさあ。」
「馬鹿は死なないよ。」 「それもそうだな。」
 馬宮たちが何や分らん騒動を巻き起こしている時、隣の折原さんが話し掛けてきた。
「ねえねえ彩葉ちゃんってさあ、可愛い子だね。」 「そうだろう。」
「でさあ、昨日頼まれた本を渡してほしいんだ。」 「ああ、絵ッとなんだったっけ?」
「『俺の彼女は高校教師』だよ。」 「そうかそうか。 帰りに寄るから渡しとくね。」
「お願いね。」 実はこの本がきっかけで二人は仲良くなるんですわ。
 昼休み、ボーっとした顔で廊下を歩いていると、、、。 「灰原君、昨日はありがとね。」
ミナッチが駆け寄ってきた。 「ああ、先生。」
「彩葉ちゃんってさあ通信制でしょう? 困ったことが有ったら私も協力するから言ってね。」 「ありがとう。」
いつ見てもチビなんだなあ。 歩いて行くミナッチを見ながらぼくはそう思った。
 ボーっと歩いていると、、、。 トイレから飛び出してきたつかさと正面衝突してしまった。 「痛いなあ。 健太。」
「飛び出してきてそれは無いんじゃ?」 「あんたこそ何をボーっとしてるのよ?」
「つかさ、健太がボーっとしてるのはいつものことだぜ。」 「それもそうね。 じゃなくてさあ、、、。」
逃げていく勉を追い掛けてつかさも走っていった。 「ぼくは何だったんだろう?」
 教室に戻ってくると折原さんは相変わらず本を読んでいる最中。 今日は芥川龍之介らしい。
『鼻』とか『蜘蛛の糸』とかならぼくも知ってるけど、、、。 そう思いながら椅子に座ると前に借りた金子みすゞの本を取り出した。
 (読んでなかったんだ。 これまだ。) 折原さんの視線を気にしながら読み始める。
馬宮たちはまたまたいつものように走り回っている。 飽きないやつらだなあ。
 「待てーーーーー‼」 「捕まって堪るかってんだ。」
「おらおら、馬宮。 何処見てんだよ?」 「え? うわーーーーー‼」
 ガシャーンってものすごい音がした。 (何だろう?)って顔を上げたら馬宮がロッカーに正面衝突した後だった。
「何をしてんのーーーーー?」 水谷先生が血相を変えて飛んできた。
「こいつが走り回ってるから注意したら突っ込んじゃって。」 「あんたたち、同罪ね。 職員室に来なさい。」
「ほらほら引っ張られてやんの。」 「勉が捕まえる必要は無かったなあ。」
「そうみたいだな。」 疲れ切った顔の勉は椅子に座るとお茶を飲み干した。
 昼休みの大騒ぎはいつものこと。 でもロッカーに衝突するような騒ぎは今回が初めて。
5時間目もまずはその話から始まって数学の本山先生は渋い顔でお説教を続けた。 「君たちは分かってるのか? もう高校生なんだぞ。」
「はい。」 「返事だけしてりゃいいってもんでもないんだ。 態度できちんと見せなさい。」 その後の馬宮は、、、。
 しばらくはおとなしかったんだけど放課後になるとやっぱり、、、。 「待てーーーーー‼」
「またやってるよ。 あいつら。」 「ほっとけ。 言っても分からないんだから死んでも分からんだろう。」
「それはそうだけどさあ、ああやって何回もお説教されたんじゃ堪ったもんじゃないわよ。」 「まあまあほっとけよ。 そのうちにお説教なんかしなくなるから。」
 勉たちの不服そうな話を聞きながらぼくも駅に向かう。 バッグには折原さんが貸してくれた本が入っている。
電車に乗るとその本を出してみた。 表紙からしてどっか面白そう。
(確かに香澄ちゃんは問題児だなあ。) こんなドタバタをやってるやつが居るのか?
居たよ。 居た居た。 馬宮ってやつが、、、。