春色ドロップス

 さてさて30日になりました。 ぼくは少し早めにさざなみ食堂にやってきました。
時計を見ると15分前です。 さっきまで雨が降ってたんだよなあ。
 「早いなあ。 もう来たの?」 そう言ってつかさが走ってきた。
「そんなに走らなくても、、、、。」 「食べる前には走らないとさあ、、、。」
「何 訳の分からんことを言ってるんだ?」 「いいじゃない。 言わせてよ。」
 つかさと勉がやり合っている。 「こんばんはーーー。」
そこへ折原さんもやってきた。
「彩葉ちゃんは来るのかなあ?」 「今、お父さんが送ってくれてるよ。」
「そっか。 楽しみだなあ。」 「あらあら、みんな揃ってたのね?」
そこへミナッチが歩いてきた。 「先生、そこ危ないよ。」
「え? キャーーーーーー‼」 「何事?」
 つかさとやり合っていた勉が振り向いた時、ミナッチは水溜まりで見事に滑っていた。
「大丈夫?」 「いやいや、またまた変な所を灰原君に見せちゃったわね。」
腰をさすりながら立ち上がったミナッチはぼくを見て真っ赤になった。 「何か有ったの?」
つかさが興味津々で聞いてくる。 「そんなのはどうでもいいだろう。 ブス。」
「ブスだって。 ひどいなあ、狸。」 「どっちもどっちじゃ、、、。」
ボソッと呟いた折原さんの一言にミナッチまで吹き出してしまった。 すると、、、。
 ピピー‼クラクションを鳴らす車が居る。 「ミナッチミナッチ、そこ邪魔。」
つかさが慌ててミナッチに声を掛ける。 「え?」
振り向いたミナッチの目の前で車が止まった。 「危ないなあ 先生。」
「ごめんごめん。 灰原君に気を取られちゃって、、、。」 「また健太か。」
不服そうな勉の脇につかさが拳骨を、、、。 「痛いなあ。」
「あーーーら、ごめんなさい。 当たっちゃったわね。」 「わざとやっといて、、、。」
 「さあ彩葉も行ってきなさい。」 「ありがとう。 楽しんでくる。」
「9時に迎えに来るからな。」 お父さんが行ってしまうと彩葉はぼくの隣に立った。
 「さあ入りましょうか。」 ミナッチが楽しそうにドアを開けるんだけど、、、。
「これ開かないわねえ。」 「先生、逆だよ。」
「え? 反対? 教えてよ 灰原君。」 「見りゃ分るだろうに。」
「勉、突っ込まないの。」 「ごめんごめん。」
 「あーーら、いらっしゃい。 待ってたわよ。」 そこへおばさんが飛び出してきた。
「あれあれ? 今夜は中学生も一緒なの?」 「中学生?」
 おばさんが不思議がってるのを見てつかさはみんなを見回した。 「中学生なんて居ないけど。」
「この子よ。 この子。」 おばさんが指差したのはミナッチ。
「おばさん、その人さあ高校の先生なんだけど、、、。」 「え? 先生だったの? あーらごめんなさい。」
「すいません。 みんなよりチビなもんで、、、。」 小っちゃいミナッチが畏まるもんだから余計に小さく見えちゃうなあ。
 「まあ入って。 一番奥のテーブルを押さえといたから。」 おばさんはさっさと厨房へ行ってしまった。
6人で夕食会。 こんなのもたまにはいいなあ。
 ぼくの隣には彩葉が座っている。 ぼくらの前にはつかさと勉が、、、。
彩葉の隣には折原さんに座ってもらった。 その折原さんの前にミナッチが座っている。
 「何を食べようかなあ?」 「そうだなあ、、、、、、、。 カツ丼なんていいなあ。」
「あんたねえ、雰囲気を考えなさいよ。」 「いいじゃない。 カツ丼でも天丼でも。」
「そうだなあ。 じゃあぼくはカツカレーにしようかな。」 「私は、、、。」
 メニュー表を見ながら折原さんと彩葉が話し合っている。 「そうだね。 スパゲッティーにしよう。」
(ミナッチは?) 気になって伺っていると、、、。 「私もスパゲッティーでいいわ。」とのこと。
三人ともミートスパにしたらしい。 さあさあこれからだ。
 「彩葉の隣に座ってるのが折原由紀さん。 今年からクラスメートになった子だよ。」 「話には聞いてました。 よろしく。 彩葉です。」
「折原です。 彩葉ちゃんが住んでる近くに友達が居るんで時々遊びに行ってます。 よろしくね。」 「それからこっちのチビがミナッチ。 よろしく。」
「勉、チビチビって失礼よ。 あんた。」 「ごめんごめん。 ほんとにチビだから。」
「チビのミナッチです。 灰原君から話は聞いてました。 時々話を聞かせてくださいね。」 「健太、ミナッチにも話してたのか?」
「他の先生には言えないけどさあ、ミナッチなら聞いてくれるって思ったんだ。」 「それで今夜も呼んだのね?」
 「はーい、カツ丼でーす。」 「デッカ、、、。」
「大きい子には大きいのがいいかと思って。」 「やり過ぎじゃ?」
「これくらいなら食べれるよ。」 「ほんとに大丈夫?」
つかさが心配するくらいに丼がデカいんだよ。 「はーい、お待たせ。 カツカレーねえ。」
「お待たせ。 親子丼です。」 「ミートソースはもうちょっと待ってねえ。」
 そしたらおじさんがお茶を運んできました。 「口直しにどうぞ。」
勉はデッカいカツを食べてます。 よく食べるわ、、、。
 「健太、何見てんだよ?」 「いや、何でも。」
「よく食べるなって思っただろう?」 「いや、それは、、、。」
「お二人さん 何盛り上がってるの? 彩葉ちゃんが可哀そうでしょ?」 親子丼を食べながらつかさが突いてくる。
「いいじゃねえか。 ちょっとくらい。」 「ちょっとでもすっとでもいいから彩葉のことを考えなさいよね。」
 「まあまあ落ち着いて。」 「ところでさあ、彩葉ちゃんと健太君っていつ頃から友達なの?」
お茶を飲みながら折原さんが聞いてきた。 「小学校からだよ。」
「へえ、、、。 そんなに長いの? 羨ましいなあ。」 「いろいろ有ったからね。」
「そのいろいろは話さないの。 勉。」 「分かってるよ。」
 「お待たせしましたあ。 ミートソース3連発ーーーー。」 「おばさん 花火じゃないんだってば。」
「いいんだ。 こんな食事会なんて初めてのことだから嬉しいんだろう。」 おじさんもどっか苦笑い。
 ここ、さざなみ食堂は出来てから15年ほど。 この町もいろんなことが有ったなあ。
駅前の床屋が燃えたのは4年前。 公園に車が飛び込んだのは10年前。
 20年前にはかなり強い地震が起きて大変だったとか、、、。 「美味しいなあ。 パスタで良かったわ。」
ミナッチは彩葉を気にしながらパスタを食べてます。 なんか可愛く見える。
おばさんが中学生だって思っただけのことは有るなあ。 「折原さんって趣味は何?」
「そうだなあ。 読書かなあ。」 「読書?」
「うん。 小説とかよく読んでるよ。」 「へえ、そうなんだ。」
「最近さあ、すごく面白い小説を買ったの。」 「何々?」
「『俺の彼女は高校教師』っていう学園小説。」 「どんな話なの?」
「最後には宏明君と高橋先生が結婚するのよ。」 「え? 高校の先生と結婚するの? やだあ。」
「ミナッチ、何か勘違いしてない?」 「え? え? え?」
 いきなり反応するもんだからつかさも焦り顔。 「中でもさあ、弘明君と香澄ちゃんのバトルが面白過ぎて引っ繰り返りそうなの。」
「そうなんだ。 読んでみたいなあ。」 「じゃあさあ健太君に頼んどくね。」 「ありがとう。」