『今度の日曜日にさあ、みんなで彩葉を囲んで食事会をしようってことになりそうだから伝えるね。』

 つかさからの短いメールだった。 それには、、、。

 『了解。』

とだけ返信して天井を仰いでみる。 つかさも勉も嬉しいだろうなあ。
卒業式に別れて以来だもんな。 とはいうけどさあまだ一か月くらいじゃないか。
 やっぱりぼくらのクラスには彩葉が居ないとダメだったのかなあ? 彩葉がアレルギーなんか無かったら、、、。
今頃はつかさと仲良くバドミントンでもしてたかもしれないなあ。 何でああなったんだろう?
ぼくが考えたって分かりっこないさ。 彩葉がどれだけ苦しんでるのかも。
 傍に居て支えるのが精一杯だった。 馬宮たちが虐めてるのを見てそう思った。
勉やつかさが居なかったらどうなってただろう? 彩葉は独りぼっちだったかもね。
そうはさせないよ。 大人になったって。

 「お兄様、ご飯ですわよ。」 「何だよ、気持ち悪いなあ。」
「えーーー、あたしが気持ち悪いって? お母さんに訴えてやるーーーー。」 「ご自由にどうぞ。」
妹がバタバタと階段を駆け下りた後でゆっくりと一階へ下りていく。 いい匂いだなあ。
 食堂では母さんが楽しそうにお好み焼きを焼いていた。 「食べてね。 たっくさん。」 「あいあい。」
返事にならない返事をして皿を持つ。 焼きたてのお好み焼きを母さんがドンと載せる。
「豪快だなあ。」 「いいじゃん。 これくらいやらないとダメなんだよ。」
「何で?」 「チョボチョボしてたって楽しくないでしょう?」
「それはそうだろうけどさあ、、、。」 「兄ちゃん 食べる時くらいつまんない話はやめてよ。」
「はいはい。」 「もう、、、。」
 「ただいまーーーー。」 そこへいつも能天気な父さんが帰ってきた。
「疲れたよーーー。」 そう言いながらジャンバーを食堂の隅に投げ置くと父さんも椅子に座った。
 「健太、学校はどうだ?」 (相変わらずだよ。)
「何だい、相変わらずって?」 「今までと同じ。 なーーーんにも変わらない。)
「ふーん、面白くないなあ。」 父さんは注いであるビールを飲んでからお好み焼きに箸を突っ込んだ。
 「で、彩葉ちゃんとはうまくやってるのか?」 「そっちはぜんぜん大丈夫だから。」
「お前やっぱり彩葉ちゃんのことが好きなんだなあ?」 「そんなんじゃないよ。 ただ、、、。」
「傍に居てやりたいんですって言いたいんでしょう? 健太。」 「ん、うん。」
「やっぱり好きなんだよ。 ずーーーーーっと一緒に遊んでたから気付いてないだけだ。」 「そうなのかなあ?」
 「俺だって高校生の時はそうだった。」 「え? 私以外に誰か居たの?」
「そりゃそうさ。 お前と出会う前なんだから。」 「そうなのか。」
 実はこの二人、30を過ぎてから出会って結婚したんだって。 ほんとかな?
「そうよねえ。 私がスーパーで働いてる時だったもんね。 あなたがプロポーズしてきたのは、、、。」 「んだんだ。」
「レジを打ってたらさあ、「これ後で食べてください。」って袋を置いていくのよ。」 「袋?」
「そうねえ。 仕事が終わって開けてみたらパンダ焼きが三つ入ってて、、、。」 「おいおい、もういいだろう。 昔のことだ。」
「へえ。 パンダ焼きで結ばれたの?」 「そうなのよ。 だからかなあ、パンダみたいな顔になったのは。」
「ブ、、、。」 妹が思い切り吹き出した。
 「さてさて食べ終わったらお風呂沸かしてね。 健太君。」 「分かった分かった。」
「寝ないでね。 お兄ちゃん。」 「お前と違うから一緒にするなよ。」
「ひどーーーーーい。」 郁子はジュースを飲みながら膨れっ面でぼくを見た。
 「何 フグみたいに膨れてんだよ?」 「ひどいひどい。 こんな可愛い妹を捕まえてフグだってーーーー。 お母さん なんとかしてよ。」
「いいじゃない。 ほっときなさいよ。」 母さんは洗い物をしながらニヤニヤしている。
 ぼくは風呂を沸かしながらふと考えた。 (折原さんの友達って何処に住んでるんだろう?)
かんがえてもどうしようもないことなんだけどねえ。 それよりも彩葉のことを、、、。

 翌日もクラスは大賑わい。 馬宮がミナッチを揶揄いながら遊んでる。
キャーキャーって逃げ回るミナッチを馬宮が懸命に追い掛けている。 (勉、ブロックして!」
三本くらい角を生やしたつかさが絶叫する。 「うわーーーー!」
「お前はもう死んでいる。」 「ウギャーーー!」
(勉、古いなあ。」 「いいじゃんか。 馬宮にはこれが一番だよ。」
「そんなこと言ったって、、、。」 半泣きの馬宮は幸子の机に手を付いた。
「やあねえ。 もてないからってさっちゃんに甘えようとしてるわけ?」 「そんなんじゃねえってば。」
「でもその顔は甘えたいんだよな?」 「そんなこと、、、。」
「無いんならどっか行っちまえよ。」 相沢君も馬宮にポツリ。
今日もどっか変なクラスなんだよなあ。 折原さんは?
隣を見たら「私 関係無いもん。」って言いたそうな顔で本を読んでいた。
 この普通課 6クラスの向こう側に生活園芸課と産業育成課の3クラスが有る。 園芸課は農業と畜産の勉強をしているらしい。
なんでも3年生になると『命の授業』とかいうのをやるんだって。 うっすらと聞いた話ではヒヨコを一年掛けて育てるんだそうだ。
グラウンドとは反対側のほうに田んぼとかドームとか倉庫が並んでいる所が有る。 今年の田んぼは何も無いけどgw過ぎには手入れをするんだとかって言ってたなあ。
 産業育成課は鉄工関係の授業が多いらしい。 4年になると鉄工所とか建設現場とか研修もやるんだって言ってたなあ。
ぼくにはとてもじゃないけど無理だよ。 鉄工所なんて、、、。
 昼になるとつかさがぼくの傍に来た。 「何?」
「彩葉さあ元気にしてるかな?」 「ああ、こないだは帰りに寄ってきたよ。」
「何か言ってた?」 「食事会も楽しみだって。」
「そっか。 楽しみだねえ。」 (折原さんにも会いたいって言ってたよ。)
「そうなの?」 本を読んでいた折原さんがぼくのほうを向いた。
「そうなんだ。 近所まで来てたよって話したら会いたいって言ってたんだ。) 「そうか。 あの日、寄ればよかったかなあ?」
「いきなり行くと驚いちゃうからさあ、、、。) 「それもそうね。」
「決まり。 勉、予定立てよう。) 「あいよ。」
「何の予定なの?」 「お前には関係無いよ。」
「そうそう。 タコは向こうに行ってなさい。」 「はいはい。 タコでーーーす。」
「うるさいってば。 分かんねえやつだなあ。」 「分かんねえ分かんねえ分かんねえ。」
 こうして賑やかな昼休みは続くのでありました。 はーあ、いつまでこうやってるんだろう?
ぼくらが最初の学生なんだ。 まだ2年生も3年生も居ない。
何もかもがこれからなんだよな この学校。 通信簿は三学期にだけ渡すって言ってたな。
試験は期末だけ。 だから試験範囲はめーーーーーっちゃ広そう。
 その頃、彩葉は初めて先生に教えてもらってました。 事細かに見てくれる先生らしい。
一応、こちらで科目を指定して頼むんだとは言うけど出来れば全教科やってほしいよなあ。 でもそうなると6時間になるのか。
全日制に通ってるのと変わらなくなるな。 難しいもんだ。
 「今日は何を教えてもらったの?」 「数学だよ。 最初からしてさっぱり分からなくて、、、。」
「そっか。 うちのクラスでもそんなに分かってる人居ないよ。」 「そうなの?」
「だってみんな揃って赤点組だから。」 「そうだったね。 あはは。」
 帰り道、彩葉とスマホで喋ってみる。 元気いいなあ。
あの葬式事件の後はどうなるかって心配したけど。 さすがにひどい事件だったからなあ。
 教頭先生も真っ蒼になってたんだ。 黒縁の写真まで置かれてたからさ。
あの後、自殺したお母さんのことは担任だった先生から聞いた。 その子も新学期には転校したって言ってたな。
だよなあ、自分が嘘吐いて親が自殺までしちゃったんだもん。
 その事件から4年。 彩葉だってまだまだ忘れてはいないと思う。
だからそれを軽々しく喋るやつが居ると困るんだ。 あの時も相当に落ち込んでたからね。
 さてさて今日も授業が終わって家に帰ってきた。 「ただいまーーーー。」
って言っても誰も居ないみたい。 母さんもどっかに出掛けてる。
静まり返った家の中でぼくは何かを考えていた。