5時間目は体育でーす。 今日はグラウンドでやるそうでーす。
「まいったなあ。 走るのかな?」 「走るんじゃねえのか?」
「嫌だなあ。」 「馬宮君ならいーーーーーーっつも走ってるから大丈夫じゃないの?」
「そうだそうだ。 お前ならマラソンの選手になれるぞ。」 「やだやだ。 足遅いのに。」
「自覚してたのか? 珍しいなあ。」 「それくらいは分かってるよ。」
「さあ行こうぜ。 噴火しねえうちにさ。」 それでみんなはグラウンドに集合しました。
 ラジオ体操をきちんとやって軽く柔軟体操もやってさあスタート! 「まだまだ最初だから走れるだけ走ってこい!」
山野先生はそう言ってぼくらを送り出しました。 一周は400メートル。 高校にしては大きいんです ここのグラウンド。
それを何周するんだろう? 勉と馬宮君はまるで追いかけっこをしてるみたい。
 ぼくと折原さんは後ろのほうからちょこちょこと付いていってる感じ。 でも速い速い。
30分ほど走っていると山野先生が右手を上げました。 「ラストだぞ!」
その頃にはみんな揃って汗だくになって疲れ切ってます。 やり過ぎたかなあ?
 教室に戻ってくると馬宮でさえヘトヘトニなったみたい。 着替える元気も無さそう。
「最後は、、、、、、、えっと理科だなあ。」 「うわーーー、これで理科なの? 最悪。」
つかさも疲れ切った顔で教科書を開いた。 「何が何だかさっぱり分かんねえ。」
 科学と地学と生物と物理、、、。 いやあ、何でこんなのをやらなきゃいけないの? みんなの目がそう言ってます。
勉は珍しく生物に興味を持ったらしい。 ぼくはそんなことより折原さんの反応が気になって、、、。
だってさあ、隣で居眠りしてるんだもん。 またかーーーーーーい?
 眠い眠い理科の時間が終わると馬宮がまたまた元気になりました。 「お前、ほんとに分かりやすいよなあ。」
「何が?」 「母ちゃんに甘えられるって思ったら途端に元気になるんだもんなあ。」
「そうだったのか。 じゃあ朝から母ちゃんに来てもらえばいい。」 「何でだよ?」
「そしたらお前だってふざけてばかりはいられないだろう?」 「ご名案!」
「嫌だなあ。 母ちゃんを呼ぶなんて、、、。」 「じゃないと誰に悪さするか分からないからさあ。」
「ひどいなあ。 俺はそこまで悪くないよ。」 「彩葉を9年間苛め抜いたお前がか?」
「それは別。」 「別でも何でもないよ。 お前たちしか居ないんだからな。」
 勉がにじり寄っていくと馬宮は顔色を変えて逃げていった。 「ったく、しょうがねえやつだ。 あんだけ彩葉を虐めておいてまだ分かってない。」
「あいつが分かったら成仏しちまうよ。」 「それもそうだな。 あはは。」
 放課後、ぼくらは昇降口へ出てきた。 陸上部の人たちがグラウンドを走っているのが見える。
「元気いいなあ。」 折原さんはぼくの後ろを歩いてきた。
「ねえねえ健太君。 日曜日にさあ遊びに行ってもいい?」 「いいよ。 何するの?」
「何しようかなあ? 何でもいいや。」 「じゃあその時に考えるね。」
 通りを車が走り去っていく。 父さんの会社の車が走ってきた。
「おー、健太じゃないか。 今帰ってるのか?」 「そうだよ。」
「気を付けて帰るんだぞ。」 父さんは窓から顔を出して辺りを見回した。
 その日も家に帰ってくるとバッグを置いて彩葉の家へ、、、。 だってさあ、つかさたちも会いたがってるんだし食事会の話もしなきゃだし、、、。
「こんにちはーーー。」 「おやおや? 灰原君か。 彩葉だね?」
「そうなんです。」 「分かった。 たぶん勉強してるところだと思うけど、、、。」
 父さんは陳列棚を磨きながらお母さんを呼んだ。 「あらあら、いらっしゃい。 さあどうぞ。」
二階へ上がると彩葉がドアを開けた。 「健太君 来てくれたの?」
「そうそう。 つかさたちも会いたがってるから話しとこうと思ってさ。」 「そうなの? でも馬宮君たちが、、、。」
「大丈夫。 あいつらは勉がブロックしてくれるから。」 「そうなんだ。」
 彩葉の机の上には教科書が置かれている。 今日は社会の勉強をしていたらしい。
「大変だなあ。 分かんないことが多くて、、、。」 「何でも聞いてよ。 ぼくらも手伝うからさ。」
「ありがとう。 つかさちゃんもそう言ってくれてたんだ。」 彩葉は教科書を閉じるとベッドに座った。
 まだまだ4月。 窓を開け放すにはちょいと寒い夕方。 ぼくらは静かな部屋の中で何かを感じている。
小学生の頃からぼくらはこうして互いの家を訪問しては遊んでいたんだ。 彩葉のアレルギーが分かってからは公園に行かなくなったけど、、、。
 それにしてもこうして彩葉と並んでいると不思議な気持ちになってくる。 今までは遊び友達だったのに。
「健太君さあ、今度一緒になった新しい子のこと知ってる?」 「ああ、折原さんね。 折原さんも彩葉と友達になりたいって言ってたよ。」
「どんな人?」 「何て言うんだろう? 糞真面目でもなくふざけてるわけでもなく、どっか抜けてる人だよ。」
「そっか。 可愛いのかな?」 「最初は取っ付きにくいかもなあ。 ぼくでもそうだったから。」
「そうなの?」 「なんかさあ、「私 あなたたちとは違うのよ。」ってオーラがすごかったんだ。 最初の日。」
「ふーん。 今は?」 「今は普通に遊んでる。 こないだ、この近くまで折原さんも来てたんだよ。」
「そうなの? 近所に友達でも居るのかな?」 「居るみたいだよ。 だから彩葉とも遊びたいって。」
「そっか。 よろしく言っといてね。 食事会も楽しみにしてるね。」 そこまで話してぼくは彩葉の家を出た。
 いつものようにコンビニに寄る。 そしていつものように缶コーヒーを買う。
それを飲みながら通りを歩く。 学校から帰ってきた子供たちが遊んでいる。
 家に帰ってくると妹が寝転がってテレビを見ていた。 「また寝てんのか? 豚になるぞ。」
「ひどーーい。 お兄ちゃんひどーーーい。 可愛がってもくれないくせに豚だってーーーー。」 「事実だもん。 しゃあないやん。」
「事実だって? 私はこれでも可愛いのよ。」 「何だよ 豚まんを踏み潰したような顔でさあ。」
「ますますひどーーーい。 お母さんに焼き殺してもらうわ。」 「まあまあ元気なこと。 健太、買い物に行ってくれない?」
「買い物?」 「そうなのよ。 ソースとマヨネーズが切れちゃって。」
「それだけ?」 「そうよ。 他には無いよ。」
「じゃあ、、、。」 そう言ってぼくは財布を貰って買い物に、、、。
 買い物何て久しぶりだなあ。 歩いていると高校生らしい女の子が歩いてきた。
(今じゃあチラ見しただけで「不審者だ!」って騒がれるからなあ。) わざと目を逸らしてみる。 何事も無く女の子は歩いていったようだ。
 スーパーに入るとお目当ての売り場へ直行。 「ソースとマヨネーズで何をするんだろう? もしかしてお好み焼き?」
そんなことを考えていたら後ろから付いてくる人が居る。 (誰だろう?)
気にはなるけど取り敢えず買い物を、、、。 そう思ってレジに並ぶと、、、。
 「灰原君も買い物してたの?」 その人が声を掛けてきた。
「ミナッチ、、、。」 「私も野菜不足だって言われちゃって買い物に来たのよ。」
「そうなんだ。」 けどぼくの頭の中には、あの派手にスッ転んだシーンがまざまざと蘇ってきたのであります。
思わず吹き出しそうになるのを我慢していると「あの時は派手に転んじゃってごめんなさいね。」ってミナッチが言ってきた。
「大丈夫だったの?」 「うん。 ちょっと腰を打っただけだから。」
(それにしてもお転婆というのかおっちょこちょいというのか、、、だよなあ。) スーパーを出ても思い出し笑いが止まらなくて苦労してます。
 玄関を入ると安心したからか思いっ切り笑ってしまいました。 「おかあさーーーん、お兄ちゃんがおかしくなった。」
「大丈夫。 ほっといても死なないからほっときなさい。」 「分かった。」
 (ほっとけとはひどいなあ。 でもなんかミナッチって何かやってくれるよなあ。) 危なっかしいの可愛いのってどっちなんだろう?)
そんなことを考えながら部屋に入る。 床に転がってスマホを開いてみる。 メールが届いていた。