〇リビング

 四人でテーブルを囲み朝ごはん。翼と綾人、香織と賢吾で座っている。
 澄ました顔でご飯を食べる綾人を、翼はジト目で盗み見る。

翼(あれが昨日、人をペット呼ばわりした態度なの?)

 怒ったように、たくさんのご飯を口に放り込む翼。

香織「翼、制服にこぼさないようにね」
翼「ウン、キヲツケルヨ」

 棒読みな翼を心配そうな顔で見た賢吾。

賢吾「どうかしたかい? 翼ちゃん」

 賢吾の心配そうな顔を見て、「うぐっ」と胸が締め付けられた翼。

翼(綾人君の事で悩んでるなんて、口が裂けても言えないっ!)
翼「ううんっ、なんでもないよ! おっ──」
賢吾「お?」

 きょとんとする賢吾に、勇気を振り絞って言う翼。

翼「お父さん……!」
 
 しーんとなる空間。
 少し目を見開く綾人。それをチラリと横目に見た翼は、ふんっと澄ました顔をする。

翼(驚いた顔しちゃって。私はペットじゃなくて、家族の一員としてお父さんにも綾人君にも接するんだから!)

 きょとんとした顔から、ダバーと涙を流す賢吾。

香織「あらまぁ、賢吾さんったら」
翼「わわ、大丈夫っ? お父さん」

 賢吾にティッシュを差し出す香織、慌てる翼。二度目の「お父さん」を聞いて、またダバーと追加の涙を流す賢吾。

賢吾「ありがどゔ、翼ちゃんっ」

 ずぴー、とティッシュで鼻をかむ賢吾。

賢吾「香織さん、僕の娘が優しすぎてどうにかなりそうだよ」
香織「ふふ、それはよかったわね」

 やさしくほほ笑む香織をみて、またぐずんっとなる賢吾。綾人がはぁ、とため息をつく。けれど顔は微笑んでいた。

綾人「父さん、そろそろ泣き止みなよ。『母さん』が困ってる」
香織「!!」

 母さんと呼ばれ、嬉しそうな香織。
 今度は翼が目を見開く。嬉しいような、照れくささを感じた翼は口を尖らせた。