〇帰宅。夏目家、リビング

 キッチンに面したダイニングテーブルに、三人が座っている。香織と賢吾が隣同士、そして翼。
 綾人はキッチンにある冷蔵庫前で、お茶をコップに注いでいた。

 テーブルの上には、旅行雑誌が数冊ひらかれていて、香織と賢吾はそれを見ている。
 雑誌から顔を上げ、目の前の翼に視線を向けた賢吾。

賢吾「大型連休は、みんなで旅行にいこうと思ってるんだけど、どうかな?」
香織「旅館とか良いんじゃないかしら!」
翼「旅行かぁ」

 翼は雑誌を一冊手に取り、「ふむ」と眺める。
 コトッとテーブルにコップをおき、綾人が翼の椅子の背に手を置いて、斜め上から覗き込んできた。
 さっと雑誌に目を通した綾人。

綾人「──母さん達さ。新婚旅行、二人で行って来たら?」

 香織と賢吾は目を見開き驚く。
 本人達に、その選択肢は浮かんでいなかったようだ。

香織「でも……、あなたたちを置いて行くのは悪いわ」
賢吾「うん、僕達だけ楽しむのは……。ねぇ?」

 顔を見合わせる香織と賢吾。
 綾人は腰に手を当て「その心配はしないでよ。翼ちゃんも含めて、俺達はそんな小さい子供じゃない」と、二人に言う。

綾人「それに、新婚旅行は今だけだよ。俺たちはもう家族なんだから、『家族旅行』はいつでも行けるだろ?」

 その言葉に翼も「確かに。綾人君の言う通りだね」と賛同した。

翼「行ってきなよ! 二人で新婚旅行!」

 賢吾と香織は顔を見合わせた。

香織「そうね……」
賢吾「せっかくだから子供達の言葉に甘えようか、香織さん」

 翼と綾人は、顔を見合わせ微笑む。

翼「お土産期待してるね!」
香織「まぁ、翼ったら」

 綾人は椅子の背に置いてあった手を、翼の左肩にのせた。
 そして、キラキラとした笑顔を香織達に向ける。

綾人「父さん母さん、留守は俺達にまかせて。──ね、翼ちゃん?」
翼(!!)

 そう言いながら、最後は翼を見下ろし目を細めた綾人。
 するりと親指が翼の、うなじ付近を撫で上げる。くすぐったさも相まって、翼は目を見開く。

翼(〜〜!?)
賢吾「女の子の翼ちゃん一人だと心配だけど、綾人がいるなら安心だ」
香織「翼、綾人君に迷惑かけちゃダメよ?」

翼(……空き巣や泥棒よりも、綾人君の方がキケンだよ!!)

 翼が内心そう思っている事など、つゆ知らず。
 香織は「どこがいいかしら?」と、賢吾と旅行の行き先を話し始めた。

翼「詩音ちゃん、お家に泊めてくれないかな……」
綾人「今何か言った? 翼ちゃん」
翼「何も言ってません」

 翼は目の前で旅行雑誌を見る香織達に、視線を移す。

翼(お母さんお父さん、その旅行やっぱり私も連れてって〜〜!)

 心の中で涙を流す翼。