〇放課後。帰り道、住宅街。

 翼と綾人が、並んで歩いている。

翼「あ、そうだ」
綾人「どうかした?」
翼「詩音ちゃんに飴もらってたの」

 ポケットから棒付きキャンディーを取り出した翼は、はむと口に含む。

翼(おいしい)

 上機嫌に舐めていると、隣から視線を感じた。綾人がじーっと翼を見ている。

翼(なんで見てくるの? ……もしかして、キャンディー食べたかったのかな?)
(──ふふっ、そうだ)

 なにやら思いついた翼は、棒付きキャンディーをずいっと綾人に向ける。
 勝ち誇ったような、絶妙にムカつく顔をしている翼。

翼「食べる?」

 綾人の目元に影がさす。

翼(ふふっ、さすがに飴の食べかけは、綾人君でも食べないでしょ?)
翼(食べたかったんだろうけど残念っ! 一個しかありませーん)

 なんともゲスい思考の翼。
 が、その考えが間違っていたことをすぐに思い知らされる。
 綾人の方へ差し出していた腕を掴まれた翼。

翼「!」

 次の瞬間。
 パクリ、とキャンディーを口に含んだ綾人。驚いて棒から手を離した翼にかわり、棒を持ちコロコロと飴を転がし舐める綾人。

綾人「うーん、やっぱり甘い。こんなに甘いものばっかり食べてたら、虫歯になっちゃうよ、翼ちゃん」

 色っぽい笑みを直視した翼は、みるみるうちに顔が赤くなっていく。

翼「し、信じられないっ! 本当に食べるなんて!」
綾人「なにが」
翼「食べかけだしっ、嫌じゃないの!?」
綾人「別に。可愛い妹の食べ残しぐらい食べれるよ、お兄ちゃんだからね」
翼(なにそれ!!)

 恥ずかしくなった翼は、この場から逃げようと走り出そうとする。
 が、カバンをぐっと引っ張られた。

翼「ぐえっ。なんなの! 急に危な──」

 肩をぐいっと抱かれ、綾人と距離が近くなり目を見開く翼。
 次の瞬間、翼の横をチャリンッとベルを鳴らし自転車が通っていった。

翼「!!」
綾人「急に走ると危ないだろう? まったく、世話の焼ける妹だ」
翼「あり、がとう……綾人君」

 ん、と言ってポンポンと、翼の頭を撫でる綾人。

翼(急に、本当のお兄ちゃんみたいに振る舞うのは、ズルい……)