☆☆☆

「うっ」


信じられない光景を目の当たりにした圭太が男子トイレへと駆け込んだ。
私はまだ呆然と立ち尽くして柔道部の生徒を見つめている。
柔道部の生徒は口の周りを真っ赤な血に染めながらも至福の表情を浮かべている。


「それ……美味しいの?」


聞くと柔道部の生徒が顔を上げた。


「あぁ。うまい。普通のものは食べられないけど、人間の肉はすごくいい匂いがしたんだ。これなら食べられるかもしれないと思った」


柔道部の生徒はしっかりとしか声色で答える。
別に、本人の意識がないとかそんな状態ではないみたいだ。
知らない間に自分の喉がゴクリと音を立てていた。


「いつから、そんな状態なの?」

「昨日かな? 朝はそうでもなかったけど、昼を過ぎたくらいからすごい空腹感があったんだ。だけどどんな匂いをかいでも美味しそうに思えない。吐き気がするくらいだった。唯一まともに口にできたのは水だけだったんだ」

「水だけ……」


やっぱりこの人も感染者なんだ。
そう理解すると全身が寒なっていって、両手で自分の体を抱きしめた。
廊下を汚す血の匂いが自分の食欲を加速されせているのがわかる。

だけど私はそれに気が付かないふりをした。
人肉が美味しいなんてそんなこと、絶対にありえない!