母親は玄関へ向けて右手を伸ばした状態で倒れている。
その目は見開かれて灰色に濁り、どこも見ていない。
更にそんな母親に覆いかぶさるようにして父親が倒れていた。
どちらも同じように血の気の失せた顔をしている。


「お母さん……お父さん……?」


震える足で一歩近づく。
そっと手を伸ばして父親の背中に触れた。


「ねぇ、どうしたのふたりとも」


声が震えて消え入ってしまいそうだ。
父親の背中を揺さぶると、母親の上からゴロリと廊下へ転がった。

その胸元は血に染まり、ナイフが突き刺さったままになっていた。
シャツのボタンを外してみると皮膚に赤い斑点が見えた。
感染してる……!

グッと奥歯を噛み締めて今度は母親を確認した。