入り口の前で躊躇していると、「入れ」と短く促されておずおずと施設内へ足を踏み入れた。
長く続く廊下は真っ白で清潔感があるが、どこからか薬品の匂いが漂ってくる。

それは病院の匂いと少し似ていて、気持ちが滅入ってしまいそうだった。
父親は廊下を真っ直ぐに進んでいくと、右手に現れたドアの前で立ち止った。
灰色のドアには入り口と動揺の鍵が取り付けられていて、それも解錠して中へ足を踏み入れる。

俺は部屋にはいった瞬間壁際に並ぶ薬品棚に目を奪われていた。
ガラスケースの奥には様々な薬品がぎゅうぎゅうに詰め込まれていて、そのどれもが見たことのないものばかりだ。


「すごいな……」


父親の研究は日本を代表するものだという認識は持っていたけれど、その一部を垣間見ただけでも言葉を失ってしまう。
普段から口うるさく勉強しろと言っている意味が、ようやく理解できた。

今の自分でも十分大学進学はできると考えていたけれど、それだけじゃダメなのだ。
もっと貪欲に新しい知識をつけなければ、きっとここではやっていけなくなる。

優秀な人材は全国、いや、他国からだって集められてきているはずだ。
父親のコネで就職できたとしても、ついていけなければ意味がない。