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父親からなんの情報ももたらされないまま、車は山の奥へと入っていく。
途中まではちゃんと舗装された道が続いていたけれど、今では獣道を車が無理やり分け入っていく状態になっていた。
伸びた木の枝が何度もフロントガラスをバチバチとなぶる。

普段は車を大切にしている父親だったけれど、このときはそれを気にする様子も見せなかった。
なにかが変だ。
おかしい。
いつもの父親はもっと優しくて、なんでもちゃんと説明をしてくれる。

勉強には口うるさいけれど、それでも子煩悩な人だった。
それが今日はずっと無言で少しも俺の方を見ようともしない。
父親から発せられている鬼気迫る雰囲気は恐怖すら感じられた。

山の中を突き進んでいた車はやがて広い敷地へと出てきていた。
そこにそびえ立つ建物は父親が努めている研究所だった。
ここへ来たことはないけれど、会社のパンフレットなどで見たことがあったので、知っていた。

でも、その外観をよく見てみるとパンフレットに乗っている写真とは若干違うことに気がついた。