もう少し。

もう少しで自衛隊員が気がついて私を撃ち殺してくれるはずだ。
恐怖から握りしめた拳にじっとりと汗がにじむ。
呼吸を整えて、もう一歩前へ……。


「みぃつけたぁ」


粘っこい声が後方から聞こえてきて振り向いた。
そこに立っていたのは音楽室で見かけたあの男子生徒だった。
男子生徒は圭太の攻撃によって右肩が折れていて、ダランと垂れ下がっている。
けれど左手にはしっかりと包丁が握りしめられていた。


「ヒッ」


小さく悲鳴を上げて逃げようとするが、すかさず廊下を塞ぐように立ち塞がられてしまった。


「こんなところにいたんだね、薫ちゃん」


ペロリと赤い舌をのぞかせて舌なめずりをするその姿は、まるで獲物を見つけたハイエナみたいだ。
男子生徒の目は血走り、そして口角は楽しげに歪んでいる。
人を殺すことに快楽を覚えた殺人鬼そのものの姿だ。