空腹に苛まれていたときには一刻も早く殺してほしいと思って、必死に足を前に進めていたのに。
満腹になった今は恐怖心が湧き上がってきてしまったのだ。
ここまで来てなにを迷っているの?

これ以上、ここで生きることにしがみつくつもり?
自分に言い聞かせて早鐘を打ち始めていた心臓を鎮める。
ここで生き続けるということは人肉を食べ続けるということだ。

それはできない。
私にそんな度胸は備わっていない。
小さな肉片ですら、食べるのをあれだけ躊躇してしまった。

それなのに、自分で非感染者を殺すなんてこと、不可能だ。
また一歩前に足を踏み出す。

自衛隊員たちはまだ私の姿に気がついていない。
まだ引き返すことができる距離にいるけれど、もう回れ右なんてできなかった。
勇気を出してまた一歩前へ移動する。