校長室の中にいるのは私と圭太の2人だけで、他には誰もいない。
圭太はテーブルを挟んで向かい側のソファで横になり、寝息を立てていた。

あぁ……この匂いの正体は圭太だ。
すぐに感づいた。
音楽室で男子生徒の吐息が頬にかかったときにも感じた、美味しそうな匂い。

非感染者の息や唾、体内から吐き出されるそれらは私達にとって食料の香りそのものだった。
まだ新鮮で、食べごたえのある肉。
ゴクリと唾を飲み込んだ私は自分でも気が付かない内に圭太の前に立っていた。

圭太はそれにも気が付かず、規則正しく寝息を立てている。
今ここで私が圭太を襲っても反撃はできないだろう。
そっと顔を近づけて圭太の匂いを嗅ぐ。

甘くて、深い香りがする。
圭太ってこんなに美味しそうな匂いをしていたんだ。
お腹がぎゅるると音と立てて、制服の上から抑え込む。

どれだけ無視しようとしても、できなかった。
圭太の頬に顔を寄せて、チロリと赤い舌を出して舐めてみる。

ほどよい塩辛さと、強い甘みが口に広がっていく。