「いらっしゃいませー」
「美味しいよー!」
「よってってー」
生徒達による軽快な呼び込み。
定番の焼きそば、たこ焼き、クレープなど飲食物が並ぶ。
「お兄さんたち、疲れてない?」
「休憩していきなよ」
私達の進路を塞ぐように営業をかけてきた生徒は、着物にエプロンといった衣装を纏っている。
手持ちの看板には、甘味処と書かれていた。
「先輩、入りましょうか」
「ああ」
「二名様ご案内ー」
「こちらへどうぞ」
看板持ちに促されるまま、私達は教室へ入る。
大きな傘の下に赤い敷物の長椅子という、和風甘味処のイメージそのものだった。
「お決まりになりましたら、お声かけください」
メニューを置いてまた客引きに戻る生徒。
メニューは、あんみつやおしるこなど、イメージ通りの和風なものばかりだった。
「先輩、何にしますか?」
「お前と同じ物で」
「考えるのめんどくさがりましたね。では、勝手に。………すみません」
挙手して店員を呼ぶ。
「お待たせしました」
「みたらし団子とほうじ茶を二つずつ、お願いします」
「かしこまりました」
店員が去って、改めて視線を巡らせる。
私達以外には、客が五組、どれも学生だ。
「この後どうする?」
どうすると聞かれましても、何があるかもわからないのに。
「先輩、パンフレットを手に入れたんですよね。いいものありましたか?」
「んー………。特にはないな」
「ないんですね……」
まあ、学生の文化祭である。
何がいいとか事前にわかるまい。
「気になったものがあれば、入ればいい。ああでも、陽橘のクラスには行っておかないと」
「そうですねぇ……」
私たちを招待した弟君に、挨拶は必要でしょう。
親族として。
たとえこんな、仮面をもらう事になったのだとしても。
何をされるかわからない、下手したら、クラス中から袋叩きにされるのだとしても。
「心配すんな。お前は俺が護ってやる」
「先輩…………」
素直に喜べないのはなぜだろう。