王都でも王宮に近ければ近いほど土地代が高くなる。貴族の邸宅が多く集まるその一帯は貴族街と呼ばれ、貴族御用達の高級店が立ち並ぶという。

(一度は行ってみたい気がするけれど、きっと場違いなんだろうな)

 「プフランツェ」はそんな貴族街にある、大きな生花店だ。花の種類も値段もうちとは比較にならないだろう。

「アンちゃんもそう思う? やっぱり俺の勘違いかもな」

「よくわかりませんけれど、騎士団の方ならジルさんと仰る方が時々いらっしゃいますよ」

「ん? ジル? そんな名前の奴いたっけなぁ……?」

 私はジルさんの名前を出すけれど、ヴェルナーさんはジルさんを知らないようだ。
 あんなに目立つ顔をしているのに知らないなんて、と思いつつ、きっと騎士団は人が多いのだろう、と結論づける。

「それで、今日はどんな花束をお求めですか?」

「あ、そうそう、今日は赤い花を中心に束ねて欲しいんだ」

 ヴェルナーさんの注文に、今日花束を贈る相手は大人な女性なのかな、と想像する。

 毎回注文する花のイメージが違うから、贈る人も毎回違うのかもしれない。