「深窓の令嬢と評判のアメルン家のご令嬢ですな。殆ど屋敷の外に出ない令嬢がどうして、と不思議がられていると聞いております」

「うーむ。一体どういうカラクリなのか……」

 多数ある議題の中で、今一番大臣たちの頭を悩ませているのが”アクア・ヴィテ”──<生命の水>と呼ばれる麻薬の一件だ。

 ここ最近、”アクア・ヴィテ”を使用したらしき人間が精神錯乱に陥ったり、幻覚作用で自殺や殺人を犯す事件が急増しているのだ。

 貧民街から始まり、急激に広まった麻薬”アクア・ヴィテ”は、徐々に王国を侵食し、ついに王都までその魔の手を伸ばしていた。

「とにかく、麻薬組織についての情報収集が最優先だ。そして各市街地の見回りを強めるように衛兵団指示を出せ。最悪、騎士団と冒険者ギルドに協力を要請するように」

「かしこまりました。そのように関係各位にお伝えします」

 国王が指示を出し、宰相が了承する。そして国王は会議室を見渡すと、暗い雰囲気を払拭するかのように明るい声で言った。

「暗い話はここまでだ。次は明るい話題に移ろうではないか。我が娘フロレンティーナの婚約式についてだ」