「離してぇ!」

(ベル様ってこんなに大きな声が出せるのですね、初めて聞きましたわ。お元気で大変結構です)


深い紫色の大きな瞳に大粒の涙を溜めたベルを肩に担いだルーカスは、自室へと入って行く。


「レイラ様、こちらへ」


レイラは隣の自分の部屋に帰ろうとしたのだが、アイザックに滑らかにエスコートされてルーカスの部屋に招かれた。アイザックの有無を言わせる間もないエスコート力、強い。


(ルーカス様のお部屋に入ってもいいのかしら?!えぇえ?!ルーカス様の匂いが充満しておりますわ!)


ギャンギャン泣いている少女よりもルーカスの部屋の匂いにレイラは頭を全部持っていかれた。アイザックに手を引かれて足元がおぼつかないままソファに座った。ように思っていたが、しっかり可憐に歩いていた。


レイラは自分が思っているよりも無意識に体にきちんとした振る舞いが刻みつけられている。


「噓泣きはもうやめなさい、ベル。何年お前の兄をやってると思っている。バレバレだ」


ルーカスの私室に入り、地面に立たされるとベルはとたんに態度を豹変させた。うるうるため込んでいた涙はすぐ乾き、大きな瞳でギッと睨む。


「何年も兄やってるくせに、私の気持ちに今更気づいただなんてお兄様は愚鈍過ぎますわ!」


高く括ったツインテールの黒髪をさらっと片手で払いのけたベルは、生意気に胸を張った。


「全部お兄様のせいです!」