すっかりルーカスのお隣暮らしが板についてきたレイラである。

初日以来、ルーカスが婚約破棄の話題を口にすることはない。


まあそもそも二人の間に会話などほぼないのだが。


夜も更け、今日も静かにソファで隣に座り合う二人に会話はなかった。


(レイラは今日も全力美しいな。息を飲むほどの青い瞳を伏せてなびく睫毛の先まで完璧に非の打ちどころがない。息を忘れてしまいそうだ……ハァ、息苦しい)


今日も脳内が忙しいルーカスである。だが、レイラは今日どうしても、ルーカスに言いたいことがあった。


(今日読んだ推理小説の舞台が行われているなんて知ってしまっては、見に行かないわけにはいかないわ!


一緒に行って欲しいなんてわがままは言いません。外出の許可が欲しいだけ……


ルーカス様はお優しい方よ。怒ったりなさらないはずだわ。


だってこんな私に婚約者の義務感でお隣暮らしさせてくれて、今だに直接婚約破棄を叩きつけない方ですもの)


脳内では大変よく喋るレイラだ。だが、ルーカスの「隣に座っていいか」の問いにコクリと頷いたのが今日のハイライトである。


(これは、聞くべきか聞かざるべきか)