ルーカスがエスコートですと丁寧に差し出した手に、レイラは流れるような所作で手を重ねた。


無口無表情のレイラであるが、第二王子ルーカスの婚約者として恥ずかしくないように厳しい教育を受けてきた。


血のにじむ努力により貴族の礼儀作法は完璧のさらに上を行く。


恋愛面としては損でしかない無表情も貴族としてはハイハイハイレベルな作法としてお手本のようなものなのだ。


レイラは顔だけでなく、立ち振る舞いも極上に美しい。ルーカスは彼女が立ち上がるだけで眩暈がする。


レイラ最大の弱点である口だけはどうしても重く動かないままだが、その他は理想的な令嬢である。


ルーカスが重なった手をきゅっと握り、レイラを歩かせる。



(私、きっともうすぐ死ぬのだわ。こんな幸福なことばかり続くなんてそれ以外考えられないもの。感謝いたしますわ神様)



ベッドまでレイラをエスコートしたルーカスと目が合うことはない。だがそのレイラよりずっと大きな手は確実に温かくて、優しかった。


(もう限界とまで言わせた女であっても、ここまで優しくしてくださるのね。


ルーカス様はなんてお心が広いのかしら。私をどれだけ好きにさせたら……気が済むのかしら)


レイラがうっとりと幸せに無表情で浸っていると、ルーカスが一つ息を飲み口を開いた。


「俺もこの部屋で寝るつもりだ」

(同衾ですか?!喜んで!)