ルーカスの声にレイラの胸がジンと痛んだ。レイラが石像のように動けないでいると、ゴンッと何かがドアにぶつかる音が鳴り、ルーカスの声がさらにかすれていく。


「君が何に悩んでいるのか察してやれなくてすまない。

俺は本当に愚鈍で、きっと何度も君を傷つけたんだろう。今回だけでなく、繰り返した過去でも、きっと何度も」


ドアの前で苦渋に満ちた声を出すルーカスにレイラは引き寄せられていく。ドアの前に立ったレイラは首を振った。


(ルーカス様に傷つけられたことなどありませんわ。いつも私が不甲斐なくて、ルーカス様の隣に相応しくないだけで)


レイラはルーカスを求めるようにそっとドアに手を当てた。ルーカスもドアの向こうでレイラを求めてそっとドアに手を当てる。求めあう二人を一枚の壁が隔てる。


「もしかして、日記に書いたことが気に障ったのか?君の意思を無視した内容だったから……」

(日記?)


レイラは机の上に大事に置かれている交換日記を見つめた。パーティの後、ルーカスが部屋に訪れることがパタリとなくなってしまった。交換日記は止まってしまい、あれ以来、この日記帳を開いたのはウィリアムだけ。


中身が変わっていないはずの日記にレイラは手を伸ばした。


ページをめくると、最後にレイラが書いた日からずっと、ルーカスの字が綴られていた。


『眠っているレイラへ、パーティでの君の振る舞いは見事だった。だが、身体に無理はしないで欲しい。話ができないままでも、君は君だ』

(いつの間に、ルーカス様のお返事がこんなに……!)