ルーカスは夜な夜な何度もウィリアムの執務室を訪ねていた。


日中は隣国の来賓であるセイディの付き人を命じられ、公務事務も平行し、夜は直談判だ。


レイラの元に行く時間がない。


「ルーカスまた来たの?」

「兄様、俺はセイディ様と婚約はできません。書類にサインはしませんし、セイディ様ご自身も反対しておられます」

「ルーカス、個人の意思なんて聞いてないんだよ」


過去2度、同じように突然、ルーカスはイーリス国の王女セイディとの婚約を命令された。


最初の時は、命令のままにセイディに付き添った。


婚約は嫌だと書類にサインするのは引き延ばしていたが、兄に抵抗できず、誘導されてセイディと多くの時間を過ごした。


結局、聖なる夜のパーティもレイラではなくセイディと出ることになった。


その頃はずっとレイラの体調が悪かったと聞いている。今思えば、忙しく、レイラと過ごした記憶が薄い。そうしてセイディとパーティに出た夜、レイラは誰かに殺された。



2回目のレイラが死んだのは、この不合意な婚約が突きつけられた直後だったとも言える。


前回のルーカスは、こんな婚約は拒否する前提でレイラの死への護衛を躍起になって優先させていた。レイラに危険が及ばないよう、怖がらせないよう、遠くから守ったはずだった。


だが、それでもレイラは誰かに、殺された。