やっとウィリアムから逃れて、ルーカスに手を引かれてレイラは自室に戻った。


だが、人形のように動くことができず、何も聞こえなくなってしまった。


「レイラ、久しぶりだな。

体調は良くなったか?パーティでは無理させてすまなかった」


大好きでたまらないルーカスが、久々にソファで隣に座ってレイラにたくさん話しかけてくれていた。


「またしばらく来れない。仕事が立て込んでいて。

さっき兄様が言った婚約破棄だが……当初に言った通り、君の安全が確保されるまでその話は置いておこう」


ルーカスの優しい声も気遣いも、すべてがレイラの耳を素通りして何も聞こえなかった。これ以上傷つく言葉を聞きたくなかったレイラは全てを遮断してしまっていた。


もうこれ以上耐えられないから。


言葉を発さず、脳内のお喋りが常なレイラは簡単に内にこもって鉄仮面を貫く。防衛本能だ。


ルーカスは久々に会えたレイラに会えない間に言いたかったことが溜まっている。


「ベルたちに聞いたが、パーティのためにたくさん準備をしてくれたこと、本当にありがとう」


懸命に話しかけるが、レイラに全て遮断されていることに気がつけなかった。


「とても、嬉しかった」


眉を下げて笑うルーカスも、がんばった成果をルーカスが認めてくれたことさえも、何もレイラには入らない。


表情には何も感情が出ず、無だ。



まさしく、人形であった。