ルーカスと同じ深い紫色の瞳に鈍い光を灯すウィリアムには、有無を言わせぬ長兄の圧がある。ルーカスは捻り上げたウィリアムの手をしぶしぶ払った。


悔しいが、ただでさえ権力の塊のウィリアムから、暴力を盾に不利な条件を突き付けられるわけにはいかなかった。


「可愛い弟だからね、今のは不問にしてあげる」


弟に握られて痛んだ腕を振るって痛みを飛ばすウィリアムは、どんな時でも笑顔だ。


にこにこ笑顔を貼り付けて崩さず、人の嫌がるところを的確に突く。兄のそういうところをルーカスは昔からどうしても好かない。


形式上の礼をしたルーカスは涙を堪えたレイラの腰を抱き直し、ウィリアムの横を通り過ぎる。



パーティ会場の端っこで勃発した王太子と第二王子の不穏な空気は、ホール中の視線を集めていた。


「ルーカス、明日の夜、僕の部屋においで。イエール国から来賓があるからね」


この言葉もすでに3回目。


何が起こるのかすでに知っているルーカスは、手を上げて御意を示す。



「来賓」の目的を思うだけで頭が痛かった。兄はルーカスが一番嫌なことをするのが好きなのだ。